みるも無惨な悲劇

–––––泣き声が、聞こえる。

それも、とてつもなく気持ち悪い声だ。

そこには、横転おうてんしたまま立ち上がれない、「ブリッジ」の姿勢をした男がいた。

この男、ついさっきまで「トイレに行く」という一大ミッションを果たすべく、

絶望のふちからがってきたはずの男である。

そんないさましい男が、何故……

「えっぐ、えっぐ」と、

横転した「ブリッジ」姿勢のまま、涙で床を濡らしているのか?

答えは、ほんの数秒前に遡る–––––––––––––––


「絶対にトイレに行かねば!!」

そんな別に格好良くもなんともない覚悟を胸に、漫然と歩を進めた男は、とんでもないミスを犯してしまう。

なんと、ベッドから床に降りる際の着地に、失敗してしまったのだ。

ただでさえ四足歩行で生活した経験なんてない人生。

ましてや「視界上下反転」などというトンデモ縛りでプレイするなど、

この男には難易度が高すぎたのである。


かくして、当然のように着地に失敗した男は、そのままバランスを崩し、派手に横転、そのまま鼻っ面はなっつらを強打し、痛みにもだえた。

だが、本当の地獄はここからであった。

なんとか立ち上がろうとした男は、とんでもないことに気が付いてしまう。

そう、「立ち上がることが出来ない」という最悪の事態に……。

というのもこの男、「ブリッジ」の姿勢を解除することが出来ないのである。

そのため、横になった「ブリッジ」の姿勢のまま、なんとかして立ち上がらなければならないのだが、非力なブリッジ男にとって、「ブリッジ」の姿勢のまま立ち上がるなど、不可能なことであった。


かくて男は二度目の絶望に身をひたし、抑えることのできない涙と、抑えなくてはならない尿意にさいなまれたまま、干された魚のように、ビチビチと床を転がり回った……。


–––––というのが、男がこの惨状を招くに至った、悲しすぎる事の顛末てんまつである。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る