険しい道のり
「またアホみたいな事を…」
俺はリリの言った事に頭を抱える。
「な、なんでですか!? いいじゃないですか、必殺技!」
「いや、そこを否定する気はないんだけどな」
確かに俺も必殺技というものには憧れていた。
社畜時代は出来なかったが、ゲーム自体は好きだったし。
けど、実際に必殺技を持てるかと言われると現実はそうもいかないだろう。
アニメとかで見る感じで技名なんて叫んでる暇ないだろうし。
「ううぅ…。も、モームさんはどうですか!?」
「そうですな。私としてもリリ殿の心意気はとても良いと思います」
「ほうら見たことですか!? やっぱりカナタはまだまだ甘ちゃんですね」
「調子に乗るな!」
「痛いっ!」
俺はリリの頭を殴る。
しかし、俺も一緒に変な声を出した割にリリの考えにモームさんが賛同したのは意外だ。
「しかしまた、カナタ殿の言う事にも一理あります」
「ほらな」
「ううぅ〜…、何でですかぁ〜…?」
「元来、必殺技というものは誰かに教えを乞うものではないからです。必殺技というのは、己が培った経験を元に編み出し、研ぎ澄まし、そして完成に至らしめるものなのです。だからこそ、私がリリ殿に必殺技を伝授することは出来ません」
「そんなぁ~…」
ガクッと項垂れるリリ。
しかし、モームさんの話は終わらなかった。
「ですが、こうしてタツミ殿と一緒に鍛錬を積み重ねる事で見えてくるものもきっとあるはず。それはもちろん、タツミ殿にも」
「……」
モームさんの言葉に俺は不思議と言い返せなかった。
これが歳の差というものなのか、モームさんの言葉には不思議な説得力があるんだよな。
「てことは、モームさんも昔は必殺技とか持ってたの?」
「もちろんです。タツミ殿やリリ殿の頃には、私も必殺技の一つでも会得したいと考えたものです」
目も口もないが、そこには確かに昔を懐かしむモームさんがいた。
「へー、見てみたいものだな。モームさんの必殺技」
「今でも出来なくはないのですがね。主にタツミ殿のおかげで」
「俺?」
俺の存在とモームさんの必殺技になんの関係があるんだ?
「ですが、興味本位で見せるのは止めておきましょう。でなければタツミ殿の体が大変なことになります」
「ちょっと聞き捨てならないんですけど!?」
何、モームさんの考えてる方法だと俺どうなってんの!?
「ああ、ダメです。またタツミ殿の体が…」
「俺の体は一個しかない!」
「冗談ですよ冗談。ですが、いつかお見せできるといいですな。さ、お喋りはこれまでにして、修行を再開しますよ」
モームさんはそう言って俺の頭の上に乗った。
そして、俺はリリを加えてまた走り出そうと思った時、ふと足を止めた。
「そういえばモームさん。一つ案内してほしいところがあるんだけど」
「?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、俺は朝の修行を終えてモームさんに案内を頼んだ場所に足を運んだ。
別に深い森の中とか、修行をするのに最適な場所とか、そんなんじゃない。
村からそう遠くも離れてないし、なんなら夜になって火を焚いてくれれば安全に帰れるくらいには近い距離だ。
「いつもはここからそのゴブリンどもがやってくるんだよな」
「はい。三度に渡る襲撃ですので間違いありません」
俺は念のためにと武器を持ってその場所を訪れた。
村の人が追撃をしようとしても痕跡を発見できないという場所へ。
「さすがに前回の襲撃から時間も経ってるし、今更痕跡なんて見つからないだろう」
「でしょうな。であればタツミ殿は何故ここに?」
「うーん、痕跡は無くても何でそれを見つけられないのかの原因、最低でもそのヒントくらいは見つけられればと思って」
ガサガサと草を掻き分けて探る俺。
「ですがこの辺りは、村の者が目を凝らして探した場所ですぞ。新たな発見があるとはとても思えませんが」
「そうだったとしても、俺自身ここを実際に見たわけじゃない。それに、理由もなく痕跡が見つけられないなんてあるはずがない。必ずそれに繋がる何かがあるはずなんだ」
俺はその後も草を掻き分け、探し続けた。
まあ、本当に何も見つけられないなら、その時は別の手を打つだけだ。
「もうそろそろ、レイナさんが援軍を見つけてくれてる頃かな」
俺はそう呟いたのだった。
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