薬草採取

 怪我人の治療、村の復興、鍛錬。

 やる事は山積みだが、一つ一つ着実に終わらせる事を胸に俺達は今日も頑張っている。


「傷の具合は大丈夫か?」


「は、はい。まだ少し痛みますが、無理のない程度には動けます」


「そうか。しかし、今はまだ人手を欲していない。休んで体を回復させることに専念しろ」


「は、はあ…」


 怪我人にそう語りかける黄色の体をした人型スライムのこの人はタリムさん。

 この村で唯一の医者であり、同時に街の顔役らしい。


「さて、これで負傷者はあらかた見たな。次は、傷の深い者への対処だ」


「なるほど、俺達がどうすればいい?」


「タツミは村から出てハナカナ草という薬草を取ってきてくれ」


「ハナカナ草?」


「この近くで群生している薬草だ。人間種には毒薬だが、スライムにとっては配合を間違えなければ超回復薬になる」


 タリムさんはそう言って一枚の紙を俺に渡してきた。

 そこには、ハナカナ草の事が事細かに書かれていた。

 このハナカナ草によく似たリンネ草という草があり、それは、どんな生物にとっても毒薬になり、誤ってそれを口にした者の内部に葉に含まれる細胞内にある胞子を入り込ませ、獲物の中で繁殖させるらしい。

 おっそろしいなこの植物。

 それで、その二つの判別方法は葉の裏側の斑点を確認すること。

 黄色ならハナカナ草、レモン色ならリンネ草か。

 よし、その程度、俺なら何とかなるな。

 ほとんどの人には判別キツイと思うけど。


「じゃあ行ってくる。どれくらい集めてくればいい?」


「このカゴ一杯で頼む」


 タリムが俺に見せて来たのは、日本成人男性が丸々入りそうなほどデカいカゴだった。


「これ?」


「これ」


「一杯?」


「一杯」


「ハナカナ草って、大きい?」


「小さい」


「「………」」


 沈黙の後、俺達はハハハと笑いあった。

 そして


「安易に引き受けるんじゃなかった―!!」


「行ってらっしゃーい」


 俺はカゴを背負ってその場から駆け出す。

 軽く言葉をかけるタリムのその場に残して。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして、俺は薬草採りへと赴いたのだが―――。


「どうしてアンタも居るんだ?」


「随分な物言いですな。弟子の動向を見守るのは師匠の役目でしょう」


「ならせめて自分の体で動いてくれ」


「いやー、この歳になると体も思う様に動いてくれませなんだ」


「そうですかい」


 俺は頭の上に居座るモームさんに言う。

 先に言っておくが、最初から頭の上に居たわけじゃない。

 気付いたら頭の上に居たんだ。

 

「忍者かアンタは…」


「ニンジャ? 何ですかそれは? 私でも知らない種族でしょうか?」


「いや、俺の地元に伝わる職業だよ。簡単に言えば、主の依頼を素早く、正確に達成する達人、みたいな感じなのかな?」


 さすがによく知らないから明確な事は言えないけど、俺の中での忍者と言えば暗闇に紛れて標的を素早く殺す仕事、みたいなイメージあるし。

 気配とか消す事に長けているイメージもあるからこの人にはピッタリだと思う。


「ほほうニンジャ……なんだかそう呼ばれて嫌な気はしませんな」


「そりゃなにより」


 気に入ってもらえたようで良かった。

 ―――と、タリムに渡されたハナカナ草の群生地はここだな。

 俺は辺り一面に広がる草畑を見ておお、生えてる生えてると一人感心した。


「採り放題だな」


 俺は頭に乗っているモームさんを近くにあった手頃な岩に置いて作業を開始した。

 一枚採っては観察し、また一枚採っては観察し―――この単純作業の繰り返しだ。

 まあ、社畜時代からこの手の作業は慣れっこだけどさ。


「ほう、タツミ殿は素晴らしい観察眼も持ち合わせていると見える」


「な、なんだよ急に?」


「葉の裏側を見ずともハナカナ草とリンネ草を区別しておられる」


 モームさんはそう褒めてくれるけど、すいません、ホントは観察スキルのおかげであって、俺自身の観察眼がすごいとかは多分ないです。

 実際に凄かったらブラック企業に入社してないです。

 という多少の心苦しさを感じながら、俺は日が落ちかけるまでひたすらに草をむしり続けた。








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