ゴブリン

 その後、俺達はレイナさん宅へと案内された。

 そこで俺達は、レイナさんとレイナさんのお爺さんスライムと顔を合わせている。


「紹介が遅れましたなタツミ殿。わたくしはモーム。レイナの実父です」


「祖父です!」


 茶目っ気なのかそんな冗談を交えて言うモームさんとレイナさん。

 まあ、片方の見た目が見た目だから正直嘘かホント分からない。

 けれど、レイナさんの反応を見る限りモームさんの言う事は嘘なのだろう。


「ま、まあとにかく……話を進めましょう」


「そ、そうですね。失礼しましたタツミさん」


 レイナさんは恥ずかしがりながら息を整える。

 正直、凄く可愛いと思う。


「ふんっ!」


「痛え!」


 机の下で、俺の脛はリリの足に蹴られた。

 予想だにしてない一撃なだけに、とても痛い。

 

「何しやがる!?」


「カナタがレイナさんに鼻の下伸ばしてるからいけないんでしょう!?」


「はあ!? 伸ばしてねーし! そもそも伸ばしてたとしても、お前に叱られる覚えはねえ!」


 最近のリリは妙に俺に突っかかってくる。

 というか、俺に対してだけ暴力という点で容赦がなくなってきている。

 まあ、同じ屋根の下で変な気遣いをされるよりかは断然マシなんだが、それでももう少し手加減というものが欲しいのも事実だ。


「どこがですか!? カナタも見たでしょうこの村の惨状を! 一刻も早くこの事を聞かなきゃならないのに、鼻のしたなんか伸ばしてる場合じゃないでしょう!」


「お、おお…!」


 まさかリリからそんなにマトモな事を言われるとは思わず、俺は驚愕する。


「まさかリリがそんなにマトモな事言うとは」


「わ、私はいつだってマトモです!」


「いや、それは無い」


 俺が言い切るとリリがまたしても俺に怒ってくる。

 こいつもこの怒りっぽい性格さえどうにかなれば、美少女なんだがなあ。

 俺と出会った時のあの清廉潔白そうなリリはどこへ行ったんだ…。

 と俺はリリに気付かれないように心の中で嘆いていた。

 すると、その様子を見ていたモームさんが笑っている。


「ハッハッハ。本当に不思議な方々ですな。お互いを毛嫌いしているようでありながら、その実お互いの事をよく理解しておられる。相性がよろしいのでしょうな」


「「どこがだ(ですか)!!」」


 俺とリリの声が重なる。

 確かになんやかんやありながらこいつとは今でも行動を共にしているが、どっちかというと腐れ縁とかそういった類だ。


「……と、また話が逸れちまった。話を戻そう、この村? 里? の惨状はどういう事だ?」


 俺は来た時に見せられたあの惨状、この窓の外に広がる惨状を聞く。

 すると、二人は先ほどのほんわかした様子から一変して俺達に向き直った。

 

「タツミさんは、ここに来る前に管理部で私が話した内容を覚えていますか?」


 レイナさんが俺に聞く。

 

「確か、故郷が多少ゴタゴタしてるって言ってましたよね?」


 俺が聞き返すとレイナさんが頷く。

 すると今度はモースムさんが口を開いた。


「実は、今回は私がレイナを呼んだのです。この村が瀕している危機を助けられる冒険者の方を連れてきてもらう為に」


「はい? おいおいまさか、それが俺達とか言うんじゃないよな?」


 俺が聞くとレイナさんはコクリと頷く。

 何があったのかまだ知らないけど、俺達がこの村のピンチを救う?

 一人は最底辺ランク、もう一人はそれより一つだけランクが上な冒険者が?


「頼りにされるのは嬉しいけど、なあリリ?」


「は、はい…。そういう話ですと、私達ではお力になれないと思います…」


 これにはさすがのリリもこう返した。

 俺も同意見だ。

 俺達の手に負える仕事とは思えない。


「ど、どうしてですか!?」


「どうしてもこうしても、俺達冒険者を近くで見てきたレイナさんなら分かるでしょう? 俺達は何度でも言いますけど最底辺とその一つ上、つまりまだまだ実力不足の駆け出しなんですよ。この村を救えるとは到底思えないんですけど…」


 一応この世界に来て最初の方に悪魔を退治したってのはあっても、本当に偶然みたいなものだし。

 それにあの時はドSモードのリリが居たからってのがデカいし。


「それについては、ご安心召されよ。なにもすぐに助けてほしいわけではありません」


 モームさんがそう話す。

 

「どういうことですか?」


「実は、今この村が瀕している危機というのはある魔物の群れの事です」


「魔物の、群れ?」


「はい。その魔物の名はゴブリン。名前くらいであれば聞き覚えがあるでしょう?」


 まあ、一応ゲームとしての知識くらいはある。

 ゴブリンって言うとアレだろ?

 小さくて冒険の序盤とかに出てきて、数だけは多い雑魚ポジションだろ?


「そんなに厄介な魔物なのか? ゴブリンって?」


「カナタ! ゴブリンも知らないんですか!?」


 あ、なんだか懐かしいなこの感じ。

 そしておそらくこの流れは駄目な流れの奴だ。


「ゴブリンは強敵なんですよ! 確かに一匹一匹の戦闘力は大したことありません。それどころか有り得ない事ですけど、もしゴブリンが一匹だけであれば冒険者でなくても討伐することが可能という話もあります」


 あ、その辺は俺の認識と同じなんだな。

 

「ですが、奴らの恐ろしさはその繁殖力にあるんです」


「繁殖力?」


「はい。ゴブリンには性別がありません。それ故に、奴らは単体で繁殖することが可能なのです」


 どうしてこの世界の魔物には俺の世界での常識が通じてくれないのだろう。

 あ、異世界だからか。


「そして奴らは生まれてから数か月の内に繁殖が可能なんです。つまり、数か月の猶予さえ生まれてしまえば奴らはすぐに戦力を整える事が出来てしまうんです」


「なるほど、確かにそれは恐ろしいな」


 一匹でも逃して、尚且つ時間を稼がれるとまた反撃か。

 さっきのローチクロコダイルといいゴブリンもまたゴキブリみたいだな。

 ゴブリンを一匹見つけたら百匹いると思えってか。


「でも、ただただやられるがままでは無かったんですよね?」


 リリが聞く。


「勿論です。我々とてゴブリンに遅れは取るまいと力を蓄えていました。そうでなくとも、この辺りは安全とはいえ様々な危険生物が生きている場所でもあります。そこで長らく生活してきた我らが、負けるなどありえないと思っておりました」


「思ってたって事は、負けたのか?」


「カナタ! そんな聞き方!」


「良いのですリリ殿。タツミ殿とて聞かねば協力などしたくないでしょう」


 まあ、協力するとはまだ一言も言ってないんだけどな。

 それにしたってモームさんの話にはおかしな点が目立つ。

 ここのスライムの人達ならゴブリンには負けない。

 さっきモームさんはそう言ってたのに、この惨状はまるで逆だ。


「今回この村を攻めてきたゴブリンは、少し特殊でしてな」


「特殊?」


「はい。最初にゴブリンが攻めて来た時はまだ我らが圧勝でした。闇夜に紛れ、不意を突かれてなおです。そして、ゴブリンに勝利した我らは奴らが繁殖する暇も与えまいと追撃をしました」


 リリは横で固唾を飲んで聞く。

 俺も自然と話を聞く手が強く握られていた。


「ですが、我らにはゴブリンの痕跡を見つけられなかったのです」


「見つけ……られなかった?」


「私も祖父から話を聞いたときには驚きました。村の中以外での、ゴブリンの血痕すら発見できなかったらしいんです」


「そんな事あるのか?」


「あり得ません。と言いたいところですが、これが現実であるので私達も手を焼いているのです」


「けど、それと冒険者の呼ぶことになんの関係が?」


「……」


 リリが聞くとモームさんは黙ってしまった。

 なんだろう、何か言いずらい事でもあるんだろうか?


「実は、ゴブリンというのは知能こそ低いですが決して愚かではありません。奴らとて何度も同じように返り討ちに遭えば、そこから学習することがあります」


「まあ、それはそうだな」


「私達が奴らの生き残りを見つけられず、悠長に時間を割く内に奴らは繁殖。再びこの村に攻めて来ました」


 なんでそこまでしてこの村を狙いたがるのかは分からないけど、とにかく何度も狙われてるのか。


「その時にもこちらの勝利。再び奴らを撤退に追い込みました。しかし」


「また全滅まではいけなかったと」


 俺が上から被せるとモームさんは静かに頷く。

 

「それどころ、奴らがその時に狙ったのは村の者ではなく、畑で栽培している農作物だったのです」


「食料狙いって事ですか?」


「おそらくですが、そうかと思います。しかし、それであればこの辺りは食料が豊富な森です。わざわざ危険を冒してまで村に攻め込む必要はないでしょう」


「つまり、村の食料を狙ったのには何らかの目的があったのか」


「お話が早くて助かります。そして、そこからまた数か月―――私達も学び、今度は万全の準備を持って奴らを迎え撃ちました。それが、このような事になるとは」


 モームさんは静かに窓を見る。

 つまり、この村の惨状は三度目の戦いで起こったものらしい。

 

「その時のゴブリンは、とてもゴブリンと呼べるものではありませんでした。体格は一回り大きくなり、数もそれまでに攻めて来たものの倍以上、そして、どこで得た知識なのか鉄の剣や石の斧という奴らの普段の武器とは違うものまで携えていました」


「そうなのか、リリ?」


「は、はい。ゴブリンは基本的に棍棒しか持ち合わせていません。知能が低いため、剣などの使い方が分からずに自傷してしまうからではないかと、研究では言われているらしいです」


「その普通なら有り得ない武器までも持ち出したゴブリンが相手か」


「はい。その三度目もどうにか堪えましたが、こちらもそろそろ限界。何とか次の襲撃までに戦力を整え、今度こそ奴らを根絶やしにせねば暮らせなくなってしまいます」


「なるほど、だから、普段から危険と隣り合わせで戦闘にもそこそこの経験がある冒険者を求めたと」


「ご説明が遅れて、大変申し訳ございませんでした」


 レイナさんが頭を下げる。

 だが、それならそれでさらに気になる事がある。

 

「でも、それならもっと腕の立つ冒険者を募ればいいのでは?」


 そう、そんなに凶悪な相手なら俺達よりもランクの高い冒険者に頼めばいいだけの話な気がする。

 それか、ランクが低いにしろ冒険者の数を揃えるとか、やり方は様々なはずだ。


「時期が悪すぎたんです」


「時期?」


「はい。この時期は冒険者の方々ですら主に依頼を受けたがりません。管理部の人間が私欲のために管理部外に助けを求める事も禁じられています」


 そういえば、前に言ってたな。

 秋にはあんまり依頼を受けに来る冒険者がいないって。

 

「それに、タツミさん達のお話につきましては、以前から管理部でも話題になっていましたから、信頼が置けると思いまして」


「いや、信頼されるのはありがたいんですけどね? お力になれるかと言われると、ちょっと俺も自信ないですよ?」


 そう、今回の問題はここだ。

 話を聞く限り、ゴブリンは数が多い。

 そのせいで、俺の幻術スキルもおそらく通じない。

 あれは主に一対一、多くても二、三人にしか効かない。

 今回のゴブリンみたいに多数いるような敵が相手だと使うだけ無駄なはずだ。


「ご安心ください。なにも今日明日ですぐに次の戦いがあるわけではありません。まだ三か月ほどは猶予があるでしょう。その間に、タツミ殿とリリ殿にも力をつけていただき、頼めるようであれば他の冒険者に来ていただく、どうでしょうか? こんなスライムのワガママですが、引き受けてもらえませんか?」


「私からも、お願いします!」


 二人からそう懇願される俺とリリ。

 

「分かりました」


「おいリリ、お前そんな簡単に…」


「ありがとうございます!」


「私共に出来る事であれば、全力でご助力させていただきます」


「…………」


「頑張りましょうね! カナタ!」


 満面の笑顔のリリ。

 そんな彼女に俺は


「痛い!」


 全力で脳天にグーをお見舞いした。

 勝手に色々決められたんだ、この程度の仕返しは許されるだろう。


◇◇◇後書き◇◇◇


今回も読んで下さりありがとうございます!

皆様からのレビュー、感想、応援、フォローお待ちしております!


それではまた次回でお会いしましょう!











 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る