嫌な予感ほど当たるもの
山道を超え、森の中を進む馬車。
道が
「だいぶ酷い道だな」
「そうですね」
「この辺りはこの時期、王様ガエルが大規模な移動を始めるんです」
「王様ガエル?」
なんだその少しだけ興味を引かれる名前の生物は。
という誰だそんな名前を付けたのは、ギャグか?
「体格のとても大きいカエルです。ただ、性格は温厚なのか近づいてもどっしりと構えている様子から、一国の王の様な貫録を感じるという事で王様ガエルという名前が付いたそうです」
「へ、へえー…」
「でも、侮ってはいけません! かつて王様ガエルの逆鱗に触れた冒険者が、そのまま飲み込まれただけでなく、近くにあった村すら丸ごと飲み込まれたという事例もありますからね」
そんなデカいの!?
絶対出くわしたくない相手になった…。
「それにしても、まだ着かないんですね。スライムの里って」
「何分辺境な地のもので、今回も私が無理を言って御者を手配していただいたので」
ふーん、色々な問題があるもんだな。
そんな感じでリリとレイナさんがワイワイと話している最中、俺は耳に届いたドドッという音を聞き逃さなかった。
だが、音の方を見ても何もいない。
「なあレイナさん。この辺で他に凶暴な魔物とかいたりしますか?」
「え、どうしたんですか急に?」
「いや、ちょっと気になって」
俺は剣に手を掛けて言う。
ただの直感だけど、嫌な予感がする。
そしてこっちは日本に居た時からの経験から分かる。
世の中は大抵、嫌な予感ほど当たるようにできている。
「うーん……この辺りで凶暴な魔物と言えば、ローチクロコダイルでしょうか?」
「なんですかそいつは…?」
「見た目は普通のワニなんですか、その脚力はその……ご、ゴキブリのそれを彷彿とさせるという魔物です。でも、おかしいですよ。この時期のローチクロコダイルはまだ眠っているはずで、余程の事でもない、限…り」
レイナさんはそこで言葉を止める。
どうやら何か思い当たる節があるらしい。
そしてその間にも、音はこちらに向けて近づいている。
その音にようやく俺以外も気付いたのか、全員が一様に驚きの顔をする。
「すいません! 全力で飛ばしてください!」
その中で一番に反応したのは、レイナさんだ。
そして、リリは俺に近づいてきた。
「ど、どうしましょうカナタ!? なんだか私、とっても嫌な予感がするんですけど!?」
「おお、いい勘してるぜリリ。ちょうど俺もそんな気がしてた」
「なんでそんなに落ち着いていられるんですかー!?」
「慣れたよもう…」
落ち着く俺と、慌てるリリ、そして焦るレイナさんの前にソレは現れた。
黒光りする鱗と長いしっぽ、触れるものを傷付けまいとする凶悪な牙。
そして、ジッとこちらを見つめる黄色い瞳。
「やるぞリリ!」
「ええ!? 無理無理、無理ですよ!」
「無理ならここでアレの餌だぞ!」
「それも嫌ですよー!」
俺はリリよりも先に馬車から飛び出す。
当然、急に馬車から出てきた俺にローチクロコダイルは目を向けてくる。
見た目のせいか、なんか俺を見る顔が笑っているように見える。
「タツミさん! 危ないですよ、戻って!」
「いいから離れてくれ! 大丈夫、死なない程度に頑張ってみる! リリは仕方ないから、レイナさんと御者の人の護衛な!」
「え、か、カナタ!?」
「早くしないと全員こいつの腹の中だぞ」
俺の向ける剣を警戒してかローチクロコダイルも近づいてこない。
だがその実、じりじりとこちらに近づいてくる。
俺だって出来れば逃げ出したいけど、この状況だとそうも行かない。
ホント、我ながらそんな性格してるよな。
「―――分かりました。くれぐれも無理だけはしないでください! 私たちはこの先で待っています!」
レイナさんの声と一緒に馬車が遠ざかる。
その時にリリの声がしたような気もするけどさすがに目を逸らして餌になりましたは笑えないしな。
「おいこのワニ野郎……俺みたいなの食ったら腹壊すぜ」
俺は精いっぱいの強がりで目の前の敵に言った。
◇◇◇後書き◇◇◇
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それではまた次回でお会いしましょう!
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