第二章 冒険珍道中
冒険者ランク
住居を手に入れて早二週間―――。
「なあリリ」
「はい?」
「冒険者ランクって、どのくらいの依頼をこなせば上がるんだ?」
俺はふとそんな疑問を持った。
俺達の冒険者ランクは俺が12、リリが11だ。
その差は俺がエレインの元で指導を受けている間にもリリは依頼を受け続けていた事によるものだが、彼女がどういう依頼をどの程度達成してきたのか、考えてみれば聞いていなかったな。
「無理のない生活を心がけようにも、最低ランクの俺じゃ受けられる依頼なんて限られてる。この前のサイクロプスみたいな依頼が運良く舞い込むってのも考えずらい。なら、せめてランクを上げて少しでも受けられる依頼の範囲を増やさねばと思ってな。―――リリ?」
俺がリリの方を見ると彼女は手を止めながら震えている。
「ダメですー! カナタの冒険者ランクが上がる事なんて認めませんー!」
「ハア!?」
血相を変えて俺に語り掛けるリリ。
こいつにとって俺の冒険者ランクが上がる事の何がそこまで駄目なんだ。
「なんでだよ。俺のランクも上がれば豪遊は無理でも平凡な生活くらいは出来るかもしれないだろ?」
「だってカナタのランクが上がったら私の勝ってるところが無くなるじゃないですか!」
どうやら、この女は俺に見栄を張りたいが為に俺にランクを上げるなと言っているようだ。
「そんなワガママが認められるか。とっとと教えろ」
俺は彼女を引きはがして言う。
リリは観念したのか涙目になりながら話す。
「うぅ~…でも、私だって分かりませんよ。いつものように依頼を済ませていたら、急に受付の方に言われたんですから」
「ってなるとやっぱり地道に行くしかないか」
簡単にランクを上げられればとか思ってたけど、経験を積めという事だ。
俺はそう思いながら剣を背負い、またしても管理部に顔を出す事にした。
「私も行きます。カナタ一人だと不安ですからね」
一見すれば俺の身を案じてくれている。
だが、その実彼女の後ろから『カナタに上を行かれるわけにはいかない』というオーラが浮き出ているのが見える。
「はいはい。それはどうもありがとうございます」
俺はそんなリリと共に俺は管理部に顔を出すことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おーっす」
「こんにちは」
「あ、カナタさん、リリーナさん。こんにちは」
俺達は受付に挨拶を済ませる。
もはや毎日の様にここに来ているので顔見知りになってしまっている。
「なんかいい仕事ないかな」
「これなんてどうです?」
俺はリリの見つけた依頼書に目を通す。
「なになに……【秘草マンドラゴラの採取】人間種の知識をより良きものにする為に未だ謎多きマンドラゴラの採取を勇敢なる冒険者に依頼したい―――要・マンドラゴラの香りには自殺を促す作用があるので鼻が利かない方に限るランクは問わない。却下だ」
「そんな! 報酬も良いのに!」
「俺達どっちも鼻利くじゃねえか」
横で悲しむリリに依頼書を戻すよう促し、俺は再び依頼板を見る。
しかし、やはり現実というのは悲しいもので、俺達の様な低ランクに受けられる依頼なぞ限られていた。
「「うーん」」
俺達は腕を組み悩む。
「どうかしたんですか?」
「「うーん」」
「あのー?」
「「うーん」」
「あーのー!」
「「え?」」
声の方を向くと、そこにはあの日のスライムのお姉さんが居た。
今日は非番なのか、私服姿で、肩を少し露出させた長袖と、対照的に下は大胆なホットパンツ。
男どもにとっては目の毒だろう。
俺だって釘付けなんだから。
「どうも、お久しぶりです」
だが、俺とて社会人。
顔には出さないようにお姉さんに挨拶をする。
横で俺を睨んでくる同居人が居るような気もするが、この際それは無視しておこう。
「はい、お久しぶりです。といっても、今日はお二人を探してたんです」
俺に微笑み返してくれるお姉さん。
けど、俺達を探してた?
一体何の理由だろう…。
これで毎日来てるのは不審者みたいだから止めてくれとか言われたら俺ショックで寝込む自信あるよ。
こっちに来てから穏やかに過ごしたおかげで精神力が少し低下してきた気がするし。
「探してたって……何かあったのですか?」
俺よりも先にリリが聞く。
それにお姉さんは頷いて返した。
「実は、同僚たちからあなた方はここの所毎日こちらに顔を出していると伺ったので」
ドキッと胸が締め付けられる俺。
まさか、思ったことが本当に言われるんじゃないだろうな!?
「は、はい…。確かに、依頼を探してここに来てるのは確かですけど…」
「そうですか。ちなみに、どのような理由でここに?」
それは生活の為ではないのだろうか。
そう考えた俺だが、ここはもう一つの方にしておこう。
「冒険者ランクを上げたくて」
「っ!!」
「おいそこ、驚くな。さっきまでその話をしてたろ」
横の小娘は置いといて、とりあえず話を進めよう。
「実は、俺達も毎日ここに来るんじゃなくて、無理が無い程度に生活できるようにしたいんです。けど、俺もこっちのリリも低ランク」
「私はカナタよりも一つだけ上ですよ」
「ここに張り出されている依頼を受けるにはどうしてもランクが必要なので、どうにか上げられないものかと思って」
「なるほど、そういう事ですか。―――分かりました。ではタツミさん、交渉しませんか?」
「交渉?」
一体この人は何を言ってくる気だ?
「私と一緒に私の故郷に来てください」
「「はい?」」
今度は俺だけでなく、リリも声を重ねた。
今までの俺の話とこの人の故郷に行くことになんの関係があるんだ?
「私の故郷は今ごたごたしておりまして、人手が欲しいんです。そこで、私の職場でもあり、冒険者の集う
「誰も居ないと」
俺が先に言う。
確かにここ数日、管理部には冒険者が少ない。
理由は分からないが、来ている奴は大抵が俺達と同じ理由だ。
「というか、どうしてこんなに人が少ないんだ?」
「さあ…」
「もうすぐ秋ですからね」
秋がこの人の少なさと何の関係があるんだ?
「秋になると、イナゴやトンボといった虫害が活性化するんです」
またか、またイナゴなのか。
というかトンボも居るってどういう事だ!?
いや、俺の耳にはそう聞こえてるだけで実は違う言語なんだろうけど、イナゴの例があるからきっとあれだろ、トンボも巨大化してんだろ!?
「この時期には熟練の冒険者の方々は備蓄をしてなるべく外に出ないようにしているんです」
「なるほど、俺達みたいなのは稀有な例って訳か」
「はい。だからこそ! お力を貸してほしいのです! お二人が以前にサイクロプスの幼体を討伐したお話は聞いています! この依頼を達成してくだされば、お二人の冒険者ランクを上げる事も私の方から打診させていただきます! ですからどうか―――」
「ちょ、ちょ、ちょ…待ってください、近い近い近い!」
お姉さんの顔が俺の顔に迫る。
大人の女性特有のフローラルな香り。
さすがの俺でもこんな人に迫られては緊張する…!
「あ、ご、ごめんなさい!」
お姉さんはそれに気づいたのか俺から離れる。
まさか自分にまだこんな感情が残っていたとは驚きだ…!
もう胸が高鳴るなんてことはエナジードリンクの過剰摂取以外ではないと思っていたから新発見である。
「ま、まあ冒険者ランクを上げる打診してくれるならありがたい限りですけど、そんな事出来るんですか?」
「ふふふ。こう見えても私、管理部ではえらーい役職なんですよ。どことまでは言えませんけど」
俺に笑いかけるお姉さん。
これまでの経験から、こんなに美味しい話がただ依頼人の故郷に行くだけで解決するわけないのは分かっている。
しかし、千載一遇のこの機会、逃す手はない。
「リリ。いいか?」
「……しょうがないですね~カナタは」
リリはやれやれと言わんばかりに賛同する。
よし、こいつには後で一発お見舞いしよう。
「分かりました。その依頼、謹んでお受けします」
俺は彼女の手を取って返した。
「ありがとうございます。私、レイナと申します」
俺はこの時、初めて彼女の名前を知ったのだった。
てか、俺達の依頼ってなんか依頼板から受ける事少なくね? 気のせいか?
◇◇◇後書き◇◇◇
今回も読んで下さりありがとうございます!
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それではまた次回でお会いしましょう!
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