親子

「このバッカ野郎!」


 モナの仕事場。

 つまり、カツジのおっちゃんの鍛冶場に訪れた俺達を迎え入れたのは、鼓膜を破りかねんほどのドデカい怒号だった。


「……ごめんなさい」


「エナメル鉱山に採掘に行っただぁ!? てめえ自分が何したか分かってんのか!?」


 さすがのモナもおっちゃんには形無しなのかしゅんとして頭を下げる。

 

「悪いおっちゃん。そうとは知らずに依頼を受けちまった俺達にも問題があるんだ」


「そ、そうです! だから、あまりモナさんばかりを責めてあげないでください」


 さすがにいたたまれなくなり俺とリリが二人の間に入る。

 

「ああ、お前さんらか。出来の悪い娘が失礼したな」


「いや、別にそんな事は……娘え!?」


 娘!? え、娘!?

 いや、カツジのおっちゃんくらいの見た目の人ならお子さんくらいはいてもおかしくないけど精々小学生くらいだとオッサン思ってたよ!

 まさかモナほど大きな娘がいたのは驚きだよ!


「はえー、おっちゃんもやる事はやってんだな」


「バカ野郎! 俺は独り身だ! 女房なんざ居たこともねえよ!」


「でもさっき娘って…」


「あー、それはなあ、ちいと話せば長くなるんだがいいか?」


 おっちゃんは難しそうに頭をポリポリと掻く。

 それに俺とリリはうんと頷く。

 ここまで来たらさすがに気になるからな。


「ありがとよ。モナ、お前さんも座れ」


 おっちゃんに言われてモナも座る。

 俺達は4人で一つの円を描く様になっていた。


「モナの両親の事は俺も知らねえ」


「え…」


 開口一番。

 カツジのおっちゃんから告げられたのはそれだった。

 そのことがリリにはとても衝撃的だったのだろう、彼女は小さく呟き、目を見開く。


「捨て子ってことか…」


「あまりお前さんは驚かないんだな」


「ま、その類の話は、あまり誇れることじゃないが、俺の地元だとまだ可愛い部類の話だからな」


 実際、日本に居た頃―――オフィスで作業中に見ていたニュースだと、親が子どもを手にかける。

 そんなニュースをよくではないにしろ、何度か見かけた事がある。

 

「そんなモナを拾ったのがこの俺だってだけの話だ」


「……流れで聞いちまったけど、モナはその話知ってたのか?」


「うん。私が捨てられたのは、五歳になる頃だったから」


「そんな小さい頃に我が子を捨てるなんて…」


「ひでえ話だろ」


 俺達の間に流れる微妙な空気。

 そんな中一番最初に口を開いたのは、モナだった。

 

「でも、だからこそ親方には……お父さんにはこれをあげたくて」


 彼女は採取した鉱石の入っている袋をおっちゃんに渡す。

 おっちゃんはその鉱石を見て驚いていた。


「お前、これを取るために…?」


「うん。お父さん、明日誕生日だから。でも、私にはまだどんなものが喜ばれるか分からないし、それならいっそ、お父さんの好きな鍛冶に関係するものをあげたくって」


 俺はなるほど、と一人納得した。

 どうして彼女がこうもこの依頼を早く引き受けて欲しかったのか、その理由がようやく分かった。


「……ちっ、バカ野郎。余計なことしてんじゃねえよ」


「……ご、ごめんなさい」


 喜ばれなかった。

 そう思ったのかモナは顔を下に向ける。

 しかし、やはりそこら辺はまだ子どもなのだろう。

 

 娘が頑張って用意してくれたプレゼントに、喜ばない親は居ない。


「けど、ありがとよ」


 おっちゃんは静かにモナの頭に手を乗せた。

 血は繋がってないけど、そこには確かに、親子の絆があると俺とリリは感じ取った。


「これで、依頼完了ですね。カナタ」


「ああ。毒ガスの話を聞いたときはどうなる事かと思ったけど、一件落着みたいだな」


「あ、ちょっと待って」


 俺達はその場から離れようとすると、モナが呼び止めてきた。


「どうした?」


「まだ何かありましたか?」


「まだ、アンタ達には報酬を渡してない」


「「あー」」


 そう言えばそうだった。

 元々俺達は住む場所を探してここまで来たんだった。

 一瞬良い話に絆されすぎて忘れてたぜ。


「なんだ報酬って?」


「いや、あのー」


「私達、今回のエナメル鉱山に同行するクエストで達成報酬として住む場所を提供していただくはずだったんです」


「なーんだそんな事か! それなら、俺が持っている家を一軒やるよ!」


「そんな簡単に!?」


 俺はまたしてもおっちゃんに驚かされる。

 家を一軒ポンとくれるってどういう事!?


「いやな。前に俺のとこに金もねえくせに武器を作れとかいうバカが来やがってよ。そいつが住んでた家を金の代わりに取り立ててやったわけよ!」


 おっちゃんは軽く言う。

 良かったー、この前の修繕の時に金ちゃんと持ってきてて。


「で、でもよ。それ相手は相当ごねたんじゃねえか?」


「ああ、まあ色々言ってきやがったがよ。ちょっとド突いたらすぐに観念しやがった。まあそれから行先も分かんねえし、どっかで野垂れ死んでんだろ」


 おっちゃんは変わらず笑って言う。

 もしかしてカツジのおっちゃんって、かなりの実力者?

 とはいえ、これで家も確保できたわけだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「すっげー! 広い!」


「わああ!」


 俺達はおっちゃんの用意してくれた家に着き、中を拝見していた。

 見た目は木造の一軒家、二階があるわけでもないごく平凡な物かもしれないが、それでも俺達が今まで住んでいたテントと倉庫に比べればホテルのVIPルームに移り住んだようなものだ。


「頑張った甲斐がありましたね。カナタ!」


「ああ! そうだな!」


 紆余曲折あったが、それでもようやく俺の新生活が始まった気がした。


「よーし、これから頑張りすぎない程度に働きますかな!」


「おー!」


◇◇◇後書き◇◇◇


今回も読んで下さりありがとうございます!

今回を持ちまして、第一章は完結となります!

皆様からのレビュー、感想、応援、フォローお待ちしております!


それではまた次回でお会いしましょう!


 


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