駄々っ子リリちゃん

「ここがエナメル鉱山か…、鉱山ってより洞窟だなこりゃ」


 俺達は次の日の昼にはエナメル鉱山に到着した。

 だがそこは山というにはあまりに入り口が下に続いている。

 まさに昔やってゲームとかで見るダンジョンの入り口の様だ。


「ここは鉱山の裏道だから。私がずっと前に見つけた」


「裏道? なんで表から行かないんだよ?」


「本当のエナメル鉱山の入り口には毒ガスが充満してて毒に強い耐性が無いと入れないから」


「毒ガス!? おい、大丈夫なのかよ!? 裏道でもこっちもエナメル鉱山の中には違いないんだろ!?」


「さあ」


 さあってそんなテキトーな…。

 いや、それよりも。


「リリ」


「は、はい?」


「お前はちゃんと依頼の全容を聞いておけよ! 毒ガス出るなんて聞いてねえぞ!」


 リリの頭に拳骨を見舞う。

 

「痛いっ!?」


 痛くなるように打ったんです。

 痛くないと困るんです。


「なんなんですかカナタは!? 私はちゃんと毒ガスの事を言おうとしましたよ! カナタがガーガー鳥のお肉に夢中だったのが悪いんじゃないですか!」


「はあ何言ってんだよ!? そんな事があるわけ……」


『実は少し問題があるらしく』


『リリが頼んでくれたみたいだけど、これ何の肉?』


 俺はそこで、確かにリリの話を遮っていたのを思い出した。


「俺のせいかよごめんなリリ!」


「早く行こう」


 そんな俺達を差し置いてモナが言う。

 ……仕方ない、一度受けた依頼だからな。

 俺は覚悟して暗い洞窟の中へ足を踏み入れた。

 未だに頭を抱えて痛そうにするリリを連れながら。

 ごめんて…。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「分かってはいたけど、やっぱり暗いな」


 一寸先は闇だらけとはよく言ったもので、目の前はすっかり闇に包まれていた。

 などと思っていると、そこから一瞬にして光が俺達の目を焼いた。


「「目が、目がーーーーーー!!!」」


 突然の光に俺とリリは転がる。

 もはや散らばっている小石とかで背中が痛いとか、そんな事は些細な問題すぎる程に眼球に感じた衝撃の方が強すぎる!


「あ、ごめん。暗いって言うからつい」


「先に言ってくれよ!」


 俺は目を押さえながらモナに叫ぶ。

 その後、俺とリリの目が回復するまでしばらく待ってもらう事にした。

 

「もう大丈夫だ。ただ、これから何かする時は一声かけてもらえるとありがたいです」


「なんで敬語?」


「気にしないでください」


 その後も俺達は奥へ進む。

 どうやら本当に表の方にしかないのか、さっき聞いたような毒ガスというものは微塵も無い。

 むしろこの洞窟が崩れて、それで生き埋めにならないかの方が心配だ。

 

 そう思った矢先、モナはおもむろに足を止めて壁に手を当てた。

 そして、自ら持ってきたピッケルで壁を削る。


「ここなら採れそう」


「何が?」


「親方にあげる為の鉱石。いつもお世話になってるから」


 そう言って掘り進めるモナ。

 だが、彼女を目的の場所まで連れてきてはい終了とは行かないらしい。

 俺は洞窟の奥からゾロゾロと這い出てきた蜘蛛を見つめながらそう思った。


「俺はもうリリを信用しないぞ」


「酷い!」


「何が酷いもんか。結局戦闘こうなるんじゃねえか」


「ううぅ…だって、鉱山の中まで案内してくれればいいって言うから、安全だと思ってたのにぃ」


「あのなあ、そんな簡単な訳ないだろでなきゃわざわざ依頼出すかよ」


 俺が言うとリリはハッとした。

 何でこいつはこう偶に脳内お花畑になるんだ?


「モナはそのまま作業しててくれ。こいつらは俺とリリで引き受ける!」


「わ、私もですか!?」


「当たり前だろ! 行くぞ!」


「わ、私ああいううじゃうじゃしたの苦手で…」


「それ以上何か言ったらあの軍団の中に放り投げるからな。剣術指南、土木作業の手伝い、そしてここまでの道中で鍛え上げた俺の筋力を舐めるなよ」


「鬼! 悪魔ーー!!」


 そう叫ぶリリと共に、俺は蜘蛛たちがモナの方に行かないよう戦闘を始めた。

 正直に言うと、今までの中で一番キツかった。

 狭いフィールド、大勢の敵、そして全力でやれば洞窟を崩しかねない故の手加減が求められるという過酷さの中でしばらく戦う俺達―――。

 可能な事ならすぐにでも引いてくれればと思ったが、奴らから見たら俺達は元気な餌程度にしか映らないようだ。


「ヒイイイイっ! 気持ち悪いです!」


「我慢しろ。俺だって出来る事ならやりたくねえんだから」


 ボウガンで的確に蜘蛛の眉間を撃ち抜くリリ。

 言葉と行動が見事にかみ合っていない彼女に少し恐怖を覚えながら俺も一匹また一匹と敵を斬る。


 そこには、ボウガンとピッケルの音だけが響き渡っていた。

 え、剣を振る音なんて出ないよ?

 俺そんな超高速で振れないし。


「ハア、ハア、今ので最後か?」


「た、多分…。というより、もう出てこないで欲しいです」


 どれくらいの時間蜘蛛を斬っていたのかもう忘れたが、途中から奴らも出てこなくなった。

 そして


「お疲れ様、二人とも。早く出ないとマズいかも」


 袋に鉱石を詰めたモナの言葉で、俺達は依頼の終了を予感した。

 ちょっと待って、今早く出ないとマズいとか聞こえた気が―――。

 

「か、カナタ…なんだか洞窟がさっきからグラグラ揺れてる気がするんですけど…」


「モナ。ま、まさか…」


「……ちょっとだけ、掘りすぎた」


 俺から顔を逸らすモナ。

 俺は瞬間的にリリの首元を掴み、モナと共に入り口まで走り出す。


「バカ野郎ーーーーーーーー!!!」


 暗い洞窟の中、俺の叫びはそれまでのどの音よりも響いたのだとか。

 そして、俺達はエナメル鉱山への裏口と引き換えに、おっちゃんへの手土産と、命を手に入れた。


「し、死ぬかと思った…」


「私、一瞬川が見えました…」


「二人とも、ありがとう。感謝はしてる」


 その場に尻を着く俺達に少ないながらも感謝を口にするモナ。

 その時の小さく笑った彼女を見て、俺達も互いに笑顔になる。


「じゃあ、帰るとしますか」


「うん」


「そうですね……って待ってください。帰るってまさか…」


「察しが良いなリリは、そうまたあの道を戻るぞー」


「いやですー! もう疲れましたー! カナタ、おんぶー!」


 お前は子どもか…。

 という感想を抱いたが、まあこいつも採掘中は頑張ったし、これくらいはしてやるか。


「しゃあねえな。ほれ」


「わーい! ありがとうございますカナタ」


 都合の良い奴。

 俺はリリにそんな思いを持ちながら、モナと共に紅く染まった空の下を、少しだけ速足で進むのだった。


◇◇◇後書き◇◇◇


今回も読んで下さりありがとうございます!

皆様からのレビュー、感想、応援、フォローお待ちしております!


それではまた次回でお会いしましょう!






 


 


 

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