ウチの遠距離役は体力が(比較的)無い

 雲一つない晴天。

 空を駆ける鳥達。

 そよぐ風。

 そして


「ちょっと待ってくださいよ〜…」


 後方でへこたれるリリ。

 エナメル鉱山まで歩きで行く為、早々に街を…というよりも国を飛び出した俺達だが、さすがに一日ちょっとかかると言うだけあって長い。

 しかもこの晴天から差す日差しと、急斜面の峠のおかげで汗も凄い。


「もうちょっとがんばれよリリ。ここを越えないと明日までにエナメル鉱山に着けないんだから」


「うん。頑張ってくれないと困るからね」


「というかなんで二人はそんなに平気そうなんですか〜!?」


「「慣れてるから」」


 声が重なる。


「そんな~…」


 リリだって普通の人よりは体力があるはずだ。

 そのリリでさえ弱音を吐きたくなるほど歩いているのだ。


「カナタ~、背負ってください~…」


「はあ!? 冗談言うなよ! 俺だって野宿の為の道具とか武器とか持ってんだぞ! それに加えてお前なんて背負ってられるかよ!」


「私が重いって言ってるんですか!? 喧嘩なら買いますよ!?」


「元気じゃねえか!」


 大声を出し合う俺達。

 しかし、このまま後方のリリを待っていると到着までに遅れるのは確かだ。

 何故かは知らないが、モナはどうやら出来うる限り早めにこの依頼を達成したいらしいし。


「仕方ねえか…」


 俺はリリの元まで歩を進め、彼女に背中を向ける。


「ほれ、早くしてくれ」


「い、いいんですか?」


「お前の為ってより、依頼の為だ。今日中にエナメル鉱山の近くには着かなきゃいけないんだからな」


「ありがとうございます」


 素直に感謝するリリ。

 しかし、彼女が俺の背中に乗った瞬間、ズシッ! という効果音が付きそうなほどの重量が加算された。


「リリ」


「はい?」


「お前はもう少し痩せるべきだと思う」


「なっ!? ち、違いますよ! これは私の持っているボウガンとか矢とか、あ、あとは汗を吸った服で重く感じるだけです! 私自身は重くありません!」


「はいはい。まったくあんな倉庫に寝泊まりしてたのに食事だけは豪遊か?」


「違います―!」


 後ろから叩いてくるリリを無視しながら俺達はエナメル鉱山へ向けて歩き出す。

 そして、峠を越えてしばらく歩いたところで日が暮れてしまった。


「今日はここまでか?」


「そうだね。ここで野宿にしよう」


 俺達が足を止めたのは、左右に森が続く一本道。

 しかし日も暮れている為、森の中には薄暗さと不気味さが共存していた。


「こ、ここでですか…?」


「仕方ないだろ。これ以上進むと暗い森の中を歩く羽目になる。俺は近くに食料が無いか探してくるから」


「なら、これを持ってって」


 森の中に進もうとする俺にモナが一本の鉄棒を差し出してきた。

 その先端には長いひもが括られている。

 つまりこれは


「釣り竿か?」


「うん。有り余った鉱石いしで作ったものだけど、小さい魚ならこれでも釣れるから」


「そっか、サンキュー」


 俺はモナから釣り竿を受け取り、再び森の中へ進む。

 とは言ってもこの辺に川なんかあるのだろうか。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「川というか、これは……」


 森の中を探し回って数十分。

 俺は森の中にポツンと湧いた池を見つけた。

 接待の時に無理矢理連れていかれたゴルフ。

 その時に見た池と同じくらいだ。


「ここに魚なんているのか?」


 俺の疑問を解決する様に池の底から影が浮き出て、ソイツは飛び出した。


「どうやら、いるらしいな」


 その魚は池の中心を飛び回っていた虫を食べると再び水に潜る。

 食べられるかどうかは……調べるか。


「二度手間はごめんだからな」


 俺はポケットを展開し、その中にあった観察スキルを取った。

 このスキルは、俺が一度対象の生物や物質を見なければならないが、それがどんなものなのか大まかに分かるというものらしい。

 まあ、大まかだから全て分かるわけじゃないけど、さすがに食べられるか否かくらいは分かるだろう。


 俺はそんな事を考えながら辺りの土を掘り起こす。

 あの魚が虫を食べたって事は、虫を釣り竿の先にくっつけておけば寄ってくるはずだからな。

 その考えの元に土を掘り、中から出てきた虫を捕まえて観察スキルを使う。

 魚の好物なら利用して、違うなら返す。

 その繰り返しだ。


「うわ、でっけえ…」


 土を掘っていると中から一際大きな虫が出てきた。

 形状的には何かの幼虫である。


「えー、なになに?」


 観察スキルを使い、その幼虫を観る。

 メガトブカ―――栄養豊富な地中でのみ孵化・成長する甲虫。

 土の栄養が豊富であればあるほど幼虫は肥大化し、成虫もまた巨大なものとなる。

 中にはメガを超えたギガトブカというものも存在するという噂。

 しかし、その幼虫は土の栄養を食べている為、全ての生物が食べられるほどに美味なものだとか。


 いや、いくら美味しいと分かってもこれは食えないぞ俺は…。

 しかし、それならこの幼虫は魚釣りに使わせてもらおう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ただいまー」


「あ、カナタお帰りなさ……い!?」


「どうしたの、それ?」


 まあ、帰ってきた俺に驚くのも無理はない。

 なにせびしょ濡れで帰ってきたんだからな。


「奥にあった池で魚釣ってたら山犬に襲われたから返り討ちにした。数が多くて何匹かられたけど、代わりに連中の肉も手に入ったから豊作だぜ。ちなみに体がビショビショなのはその時の返り血を池で取ろうとしたら思ったより深かったからだ」


 俺は両手に魚を数匹と山犬を見せる。

 本当なら血抜きとかするべきなんだろうけど、そんな技術は俺には無い。

 だから無理!


「そ、そうなんですか。大変でしたね」


「お疲れ」


「ああホントに疲れた。野宿の用意とか出来てるか?」


「あ、はい! 私とモナさんでちゃんと準備しましたよ!」


「リリも頑張ってた。えらいえらい」


「あ、えへへ~…!」


 モナに頭を撫でられるリリ。

 そこで俺はある疑問を持った。


「そういえばモナっていくつなんだ?」


「18」


 彼女の年齢を聞いたリリがその場に膝をついた。

 

「わ、私……年下よりも体力が無いうえ、年下に頭を撫でられた…」


 相当ショックだったのか、リリは静かにそれを繰り返しており、モナもモナで何故リリがそうなっているのかよく分からない様子であった。


「ま、まあ……そのなんだ、ドンマイ…」


 俺は優しくリリの肩を叩く。

 その後、二人が用意してくれた焚火で肉と魚を焼き、食事にした。

 その時にも、リリはショックを受け続けており、不覚にも面白いと思ってしまった。


◇◇◇後書き◇◇◇


今回も読んで下さりありがとうございます!

皆様からのレビュー、感想、応援、フォローお待ちしております!


それではまた次回でお会いしましょう!

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