モナ
「エナメル鉱山?」
「はい。ここから少し西に行ったところにある鉱山なんですが、少し問題があるらしいんです」
酒場で食事を摘まみながら話す俺達。
あ、この肉美味い。
「リリが頼んでくれたみたいだけど、これ何の肉?」
「ガーガー鳥のお肉ですね」
「ガーガー鳥ってなんだ?」
「ガーガー鳴く鳥です。何でも、鳴き続ける事によりお肉は程よく温められることでそのまま食べる事も出来るらしいです。ちなみに、よく鳴くガーガー鳥ほどお高いお値段になるらしいですよ」
へー、そんな鳥がいるのか、見たことないけど間抜け面なのかな?
名前がそんな感じする。
「ねえ、ちょっといい?」
会話を遮ってきたのはあの女の子。
あの時は暗闇で見えなかったが、目は髪と同じで黒である。
見た目だけなら純日本人だ。
「ああ、ごめん。それで、君が今回の依頼主って事だけど、管理部には依頼を出したの?」
「出してない」
「なんで?」
自分で言うのもなんだけど、こんな素性の知れない駆け出しの冒険者に頼むくらいなら管理部でしっかりとした手順を通してからそこそこ腕の立つ冒険者に依頼する方がマシだと思う。
あの悪魔退治だって俺達が勝手にやった事だから、俺達以外に知ってるのはスワロフさん夫妻だけだし。
「管理部で依頼を出すと、親方に知られるから…」
「親方?」
俺が聞くと代わりにリリが近づいて耳打ちしてきた。
「どうにもこの人、カツジさんの所でお世話になってるらしくて、そのお礼をしたいらしいんです」
「カツジのおっちゃんの?」
……確かに前に商店を出してたから、武器職人だとは思ってたけど、まさかカツジのおっちゃんの所の子だとは、やっぱり世界は広いけど、世間は思ってるより狭いものだ。
「まあ、そういう事なら受けるしかないな。おっちゃんには色々世話になってるし」
この前も修繕を格安で請け負ってくれたんだ、そのおっちゃんの知り合いとあれば、無下にはできない。
「一応聞いておくがその依頼、戦闘は無いものと思っていいんだな?」
「何? 怖いの?」
「まあ怖いか怖くないかで聞かれたら怖いけど、それ以上に武器が無いからな。戦闘は困る」
俺がそう言うと女の子は
「多分、大丈夫」
そう言った。
「リリ」
「はい?」
「お前今回は戦闘は無いとか言ってたじゃねえか!」
「痛いです~!」
俺はまたしてもリリの頬を引っ張る。
こ、こいつ慣れてきやがったのか、この状態でも普通の発音をしてやがる…!
「よく分からないけど、武器があれば依頼は受けてくれんの?」
「え? あ、ああまあ武器さえあればな。それがどうかしたのか?」
「別に。けど分かった、三日待ってて」
「あ、ちょっとアンタ」
俺は少女を呼び止める。
「モナ」
「は?」
「あたしの名前。アンタじゃなくて、モナ」
少女は名前だけを名乗って出て行った。
そしてそこには俺と横に頬を伸ばされているリリが残る。
三日って、何だ? 武器の用意でもしてくれんのか?
「カナタ痛い! 痛いですよ~!」
「うるせえ! お前は依頼を持ってくるならキチンと話くらい聞いてこい!」
俺は久方ぶりにそんな言い争いをする。
そして、俺達も店を出た。
「所で、カナタは今どこに住んでいるんですか?」
「え、テント」
俺が現状を話すとリリは驚愕した。
こいつは何を驚いているのだろうか。
雨をしのげてぐっすり眠れて、場所を選ぶ必要が無い。
住むところとして最低限の要素を満たしているのだから十分じゃないか。
「やれやれ、カナタは駄目ですね。私なんて、ちゃんとした広さの場所を持ってるんですよ」
リリが、またしてもマウントを取ってくる。
しかし、ならば気になる事も出てくる。
「じゃあなんで今回の依頼を受けたんだよ?」
「えっ…」
俺が聞くとリリの顔が引きつった。
こいつがちゃんとした寝床を確保しているなら、わざわざ、俺を探し出してまで今回の依頼を受ける必要はない。
つまり、こいつも周囲の人から見たら到底信じられない所で寝泊まりしているという事だ。
「い、いやー…。やっぱり生活するならもっとちゃんとした所に住みたいと思って」
やっぱりか。
こいつはどうにも嘘が下手くそな気がする。
絶対ポーカーフェイスとか出来ないだろ。
「で、でも! カナタのテントよりはマシなはずです!」
「ほー、そこまで言うならお前の寝床に案内してもらおうじゃねえか」
「い、いいですよ! なんなら今日は特別に泊めてあげましょう! けど、変な事したら許しませんよ!」
変な事?
俺が? リリに?
「ハッ、そういう事はなあ、いっぱしに人をドキドキさせられるようになってから言いな」
「なんですとー!」
俺は不機嫌ながらもリリに案内される。
案内、されたはずだ。
「それで、お前の寝床はどこにある?」
「失礼ですね。ここにあるじゃないですか、立派な一軒家が」
「俺にはボロボロの倉庫らしきものしか見えないんだが?」
目の前にあるのは、間違いなく倉庫だ。
しかも、ドアの近くまで雑草が伸びているのを見るに、ほぼ誰からも手を付けられていない。
「そ、外からはそう見えても中は凄いんですよ!」
「どれどれ……うっ」
「うっ!? 今、「うっ」って言いましたよね!?」
「いやだって臭いが…」
やはり中も誰にも手を付けられてないらしい。
中にあるのはリリのボウガンとムチ、それからボウガンに装填する用の矢。
他には何もない。
「に、臭いはそうかもしれませんが、カナタのテントよりは広いはずです」
「まあそれは、な」
確かに広さという面で見ればリリの方が上を行くかもしれない。
「だが、住みやすさで言えばどっちもどっちだと思うぞ」
「そんなバカな!?」
しかし、せっかくの提案なので俺はこのボロボロの倉庫で一夜を過ごす事にした。
◇◇◇後書き◇◇◇
今回も読んで下さりありがとうございます!
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それではまた次回でお会いしましょう!
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