宴
「帰ってきてしまった…」
結局、何の切り出し方も見つけられないまま宿屋に着いてしまう俺達。
「スワロフさん。ガッカリするでしょうね」
「ああ、そうだな。けど、言わないって事は無理だ。覚悟を決めよう」
俺は意を決して扉を開く。
「カナタ様、リリーナ様。お帰りなさいませ! よくぞご無事で!」
そこには満面の笑みをこちらに向けるスワロフさんがいた。
う、何も知らない笑顔が心に刺さる。
「あの、スワロフさん…」
「その言いにくいんだが……嫁さんの魂は」
「本当にありがとうございました」
俺の言葉を遮り、スワロフさんの横にお婆さんが現れた。
誰…?
「夫からお話は伺っております。夫とこの宿の為にあの凶悪な悪魔と戦ってくださったと」
夫?
スワロフさんが…?
という事はつまりだ。
「アンタがスワロフさんの嫁さんか!?」
「はい。おかげさまでこうして元の体に戻れました。本当にありがとう」
お婆さんはそう俺達に頭を下げる。
それを見た俺とリリは顔を見合わせる。
「よっしゃー!」
「やったー!」
そしてお互い、心の底から歓喜した。
だが、さすがにスワロフ夫妻の再会もついさっきの出来事の為、約束の料理は準備が出来ていない。
材料を揃えようにも今から街に出たところで店もやっていない。
だから勝利の祝いは明日に回すことにした。
「やったんですね。私達」
「まあ、私達というか……」
ほぼほぼリリが暴れ回った記憶しかないが…。
「い、言わないでください! あの時は、私もよく分からなかったんです! なんだか、自分じゃないような気がして、カナタはそんな気しなかったんですか?」
「ぜんっぜん!」
俺が強く言うとリリが叩いてきた。
だって全くそんな気は微塵もしなかったんだもの。
「というより、お前に消されたあのシャドウとかいう悪魔の方が可哀想に思えてきてたわ」
「なんですって!? カナタ、この期に及んで悪魔の味方をする気ですか!?」
「可哀想に思えたっつっただけだろうが!」
「同じですよ同じ! あーあー! そうですか! 私も今日の為に頑張ったのに、カナタは私を褒めてくれないんですね!」
俺達は本当に先ほどまで悪魔と戦っていたのか。
心の底から問いたくなるほど元気に、俺はまたリリと喧嘩をした。
「はあ…ったく、そうだよな。お前も頑張ったもんな」
俺はなるべく優しくしようと心掛けてリリに言う。
すると、リリは満更でもないのか笑顔を浮かべる。
「ま、まあ分かればいいんです。まったく、カナタは素直じゃないんですから」
でも、やっぱりこういう所は可愛くない。
見た目は美少女だけど、こういう所だけは、絶対に可愛くない!
「はあ、俺の周りの女はどうしてこう…」
「なんですか? 何か言いたいんですか? いいですよ聞いてあげましょう!」
「お前絶対初めて会った時とキャラ変わってるぞ」
俺は冷静に言った。
まあ当然、リリは喚いていたが俺は無視して部屋に戻る。
そして、思いっきり床に顔面をぶつけた。
「……ぷふー、やっぱり幻術スキルは疲れる」
俺は誰にも聞こえないように呟く。
当然の事なのかもしれないが、幻術スキルにもデメリット的な物が存在する。
他のスキルと比べると取得してすぐに使える上に悪魔にも効果的なのが今日分かったのはデカいが、その反動として俺は全身に物凄い眠気と倦怠感を覚える事になる。
昨日これ食らって、風呂で溺れかけたのはいい思い出だ。
それにこちとら腐っても元ブラック企業社員。
眠気と倦怠感なぞ一緒にビールと焼き鳥を囲う仲だ。
そう思っていたのだが、どうやらこっちに来てから少しは一般人に近づいたようだ。
「まあ、風呂は……明日の朝にでも、入る、か……すぅ」
俺は目を閉じた。
この世界に来てから一番最初の目標。
それはどうやら達成できたらしい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次の日の夜―――。
俺達は、こっちに来てから一番の宴をした。
「アッハッハッハ! スワロフさんも昔は冒険者だったのか!?」
「ええ。もう何十年も前になりますが、その時に管理部で受付をしていた彼女と出会い、彼女に会いたい一心で管理部に通い詰めて今に至るわけです」
「一途な想い。いいですねえ」
俺、スワロフさん、リリの三人は共に酒を飲む。
ちなみ、俺の顔もだいぶ赤くなっているのが分かるくらい顔が熱い。
リリはすでに真っ赤、だがスワロフさんはケロッとしていた。
俺も酒は大概強いと思ったが、上には上がいるもんだな~。
「おーいリリ! 未成年が酒なんか飲んじゃダメだろう~…!」
「カナタってば飲みすぎなんじゃないですか~。私はこう見えても冒険者。二十歳は超えてるんですよ~」
「あ~、そっか~」
「ふふふ。お二人とも楽しまれているようで何よりです」
「あ~、ビビアンさん。何か手伝える事あったら言ってくださいよ~、俺も、ヒック、手伝いますから~」
「ありがとうございますカナタ様。ですがご安心を、歳は食いましたが、これでも元管理部の職員。体力には自信がありますので」
ビビアンさんはそう言って去って行く。
前にスワロフさんから聞いてた通り、彼女の料理は絶品の一言に尽きる。
そして、彼女の料理を味わえるという事は、もう一つ大事な事があるが、まあそれは追々として、今はこの宴を楽しもう。
「ハッハッハ! 今日は無礼講だー!」
「だー!」
「ハハハ。こんなに楽しい日をまと迎えられるとは思いませんでした。カナタ様、リリーナ様。今一度感謝を―――ありがとうございます」
何かすごく大切な言葉を受け取った気がするが、それでも俺達はその宴を味わい尽くしたのだった
◇◇◇後書き◇◇◇
今回も読んで下さりありがとうございます!
皆様からのレビュー、感想、応援、フォローお待ちしております!
それではまた次回でお会いしましょう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます