魔法
俺は宙に向けて剣を振り抜く。
素振りじゃない、目の前の悪魔を斬ろうとしただけだ。
「おーとっと危ねえ! 今のに当たってたら死んでたかもな、ヒャッヒャッヒャ!」
嫌味で笑う悪魔。
だが、その油断を見逃さずに奴の足元にムチが絡みつく。
「おお!?」
「捕らえました!」
リリがムチを手に言う。
そして、慣れた手つきでボウガンに矢を装填して悪魔に向ける。
片手だけで装填とか、器用な事が出来るようになったな。
「ヒヒヒ…」
俺がリリに感心していると、突如悪魔がリリのムチから抜け出した。
いや、どちらかと言えばその場から消えたというのが正しいかもしれない。
奴を明確にしていた赤い輪郭線すら消え、その場にはただただ暗闇だけがあった。
「いやあああああああ!!」
まあ当然、リリの放った矢は悪魔が消えたからもちろん空振り。
それだけならまだしも、その矢は彼女と悪魔の直線状にいた俺に対して飛んでくる。
情けない声を出しながらも、俺は矢を躱した。
「お、おまっ、お前なあ! もう少し考えてから撃ってくれよ危ないだろ!?」
俺じゃなければ今頃弓道の的よろしく額を射抜かれてるところだ。
良かった、こっちに来てから依頼とか訓練とかしてて本当に良かったー。
「な…! しょ、しょうがないじゃないですか!」
同僚を射抜こうとして何がしょうがないのだろうか。
もし可能なら、後で是非ご教授頂きたいものだ。
「いやー、残念だなあ…! オレ様が影じゃなかったら、当たってたのになあ!」
俺達の前に再び姿を見せる悪魔。
「影?」
「おーっといけねえ、口が滑っちまった。駆け出しの雑魚と言えど、向かってくる相手に自分の事を話すなんざオレ様の趣味じゃないんでね」
俺の前に現れて飄々と話す悪魔。
俺は今なら斬れるのではと思い目の前で剣を振る。
「わーお、容赦ないねえ! いいじゃんいいじゃんそうでなくちゃ面白くないじゃん!」
やはりそう上手く事は運ばず、俺の剣は空振り。
悪魔は変わらず飄々としながら俺達をけしかける。
「なんだか無性にムカッと来ますねアイツ」
「まあ、そう思うのも無理はないけど落ち着けよ。焦るとあっちの思うつぼだぞ」
俺は隣に来てイライラするリリを宥める。
リリってこんなにイラつく奴だっけ?
「分かってますよ! けど、なんだか私、ああいう人は無性にイライラするんです!」
どうやらただの好き嫌いらしい。
「絶対に許しません!」
燃え上がるリリ。
すると彼女は、ボウガンで矢を連発し始めた。
いや何してんの!?
「おい待て! 少し冷静になれ!」
当然、悪魔はまた姿を消す。
というより、輪郭線が無いからこの暗闇に一体化してるように見える。
「離してください! あの人には一発だけでも決めてやらないと気が済まないんです!」
「お前この前までの臆病さは何処に置いてきたんだよ!?」
「ヒッヒヒ……じゃあお前らに一つ面白いモノを見せてやると」
悪魔が俺達に言う。
「なんだよ魔術か?」
「魔術ぅ? ギャハハハハハ! あんな低級な技誰が使うかよ! 俺が見せるのは『魔法』さ」
何が違うんだろう。
俺はそう思ったが、悪魔は一度両手を叩いた。
「影魔法・
悪魔が呟くと、リリの放った矢の一発が闇に消える。
そして、闇から一本の矢がリリに目がけて飛んできた。
「リリ!」
「ふんっ!」
俺が彼女を庇おうとするが、彼女はその矢をムチで砕いた。
あれぇ? 俺の知ってるリリは
ほら、流石の悪魔さんもこれにはビックリしてるよ。
「あ、あれれ? おかしいなあ、オレ様の予想だとお前らの内そっちの嬢ちゃんの方が雑魚なはずなのに…」
あーあー、さっきまでの話し方すら無いよ。
「ふふふ。カナタぁ、やっぱりあの人おかしいですよ? だって、私の方が冒険者としてカナタよりもランクが上なのに、私の方が雑魚らしいです。きっと性別でしか強さを測れない可哀想な人なんですね。あ、悪魔だから人じゃないか?」
リリさん、その笑い方はシンプルに怖いです。
あと、この空白の一か月にお前に何があったし。
「ま、まさかお前魔力が……いや、そんなはずがねえ、だったら武器なんか使うか!」
今何か重要な事を聞いた気が。
「何を言ってるんですか。それよりも覚悟はいいですか? いいですよね? あなたの意見なんて聞く必要ないですね?」
俺にもう、このリリを止める事は出来ない。
「へ、例え俺を倒したところでお前らなんかにこの先を生きられるもんかよ」
悪魔は観念したのかそんな事を言う。
「またまたぁ、寝言は寝てから言ってくださいね」
「待ってくれリリ。少しだけ話を聞かせてほしい。おい悪魔、お前何を知ってるんだ?」
「へ、そんなこと言われて言うかよ」
「よしリリ、
「わ~い」
「わあああああああ待った待った! 話す話すからその嬢ちゃんをこっちに近づけるな!」
そんなに怖いなら最初から話せばいいものを。
「なら早く話せ」
「そうしたらこの嬢ちゃんは近づけねえか?」
「―――ああ。近づけないよ」
「分かった。だが、これを聞いたら帰ってママにでも慰めてもらうんだな! なんと、あの魔将星が甦るのさ! いやそれだけじゃねえ、その先にいる魔王様すらも封印の中で順調にお力を溜められているんだよ! その暁には、お前ら人間種だけじゃねえ、他の種族も絶滅して世界はオレ達悪魔と魔王様達のものになるんだよ!」
はー、世界征服に魔王、しかも俺はまだまだ雑魚の部類。
うん。在り来たりすぎる世界観だけど、オッサンの頭にはそれくらいの方が分かりやすくて助かるわ。
「そうか。じゃあ約束を果たしてやる。おーいリリ、そんなのでも約束は約束だ。こっちに来てくれ」
「えー、だってそれカナタが勝手にした約束じゃないですかー。私が守る理由なくないですか?」
「え、ちょっと」
「あ、そっかそれもそうだな」
「はあ!?」
「じゃあ、好きにすればいいぞ」
俺が言うと、リリは目を輝かせながら悪魔に近づく。
「クッソ、何でだ! 何で魔法が発動しねえ!」
悪魔はまたしても逃げようとする。
いや、正確には本人にとっては逃げようとしてるんだろう。
俺達には、ただ叫びながら座っている様にしか見えないがな。
これが俺の新たに会得したスキル。
幻術スキル<心身剥奪>。
自分の体と、考えを離すスキルだ。
だから奴は頭の中で必死に逃げようとしているが、体はずっとそれを受け付けない。
魔法とやらを発動しようとしないのだ。
「えへへ……お覚悟~!」
「いやだああああああああああ!!!!」
そこから先の事は、とてもとても俺の口からは語れない。
ただ、リリ……いや、リリ様はどうやら裏の顔はとても残忍らしい。
ある意味、悪魔よりも悪魔らしい。
その後、悪魔は霧散した。
つまりは、俺達の悪魔討伐は完了した。
「あれ? そういえば俺達スワロフさんの嫁さんの魂返してもらってなくね!?」
それは非常にマズいぞ!
あんだけ格好つけて任せろとか言ったのに、出来ませんでしたとかもう恥ずかしくて出歩けねえよ!
そのまま稼ぎもなく、餓死するのがオチだよ!
「ううう~……カナタ! さっきのは私の素ではありませんから! 勘違いしないでくださいよ!」
「今はそんな事言ってる場合じゃねえんだよ!」
リリは顔を真っ赤にしながら俺に言って、俺はリリに返す。
それは帰り道でも続き、俺達は喧嘩をしながら宿屋まで帰った。
しかし、しかしだ。あの悪魔が言っていた魔王とかよりも気になるのは魔法の事だ。
俺はこの世界は魔術がすべてと思っていたが、ちょっと調べてみるのも良いかもな。
……とまあ、それは置いといて。
「あー、もう! スワロフさんになんて言えばいいんだよ!」
帰り道、俺はその事ばかりに苦悩していた。
◇◇◇後書き◇◇◇
今回も読んで下さりありがとうございます!
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それでは、また次回でお会いしましょう!
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