閑話1 風呂にて

「なあスオウ。一つ聞いていいか?」


「なんですか?」


 俺は風呂で今日一日の疲れを取りながら彼に聞くことにした。


「教官ってさ、なんで紅騎士って呼ばれてんの?」


 そう、話題はもちろんあの性悪ことエレインの事だ。


「簡単ですよ。敵の血に塗れてなおその美しさが損なわれないから、紅いドレスを纏ったような騎士で、紅騎士なんです」


「……え、それだけ?」


「それだけです」


 案外単純だったことに面食らう俺。

 もっと大層な理由があるものかと思ったがな。


「けど、大事なのはそこじゃないですよ」


「何がだ?」


「噂でしか聞いたことがないんですが、あの人が騎士になってから誰一人、彼女が傷を負ったところを見た人はいないらしいです」


「何をバカな事をって言いたいけど、今日のを見せられるとあながち嘘とも言えないな」


 あの一撃は本当に凄かった。

 気が付いたらイナゴが真っ二つになってた。

 剣を抜くところすら見せてもらえなかった。

 日本にも居合ってのはあるし、俺もずっと前に元の世界で動画を見たけど、今日の彼女がしたことはまさにそれだ。


「けど、あの性格はどうにかならんものかね…」


 湯船の温かさに触れながら俺は愚痴をこぼす。

 それにスオウはただ笑って返した。


「そういえば、タツミはどうして冒険者なのに剣術指南を受けに来たんですか?」


「なんだ突然?」


「いいじゃないですか。いつも僕ばかり聞かれているの不公平ですし、教えてくださいよ」


 そう俺に語り掛けるスオウ。

 そのやり取りは、まさに学友との会話だ。


「そうだな。まあ、冒険者なんて職業だから少しでも危険は減らしたいんだよ」


 俺は近くに置いたタオルで顔を拭く。

 タオルを湯船に浸けないのはマナーだからな。


「しかし、危険な目に遭いたくないなら商人などになれば良いんじゃ」


「店をやろうにも知識がないし、それに冒険者なら、好きな時に仕事するだけでいいからな」


 商人となると、決まった時間に仕事をしなきゃならないし、客入りによっては冒険者以上に収入を得るのが難しいかもしれない。

 それに比べて冒険者は確かに危険だし、報酬もまばらなのは認める。

 だがその分仕事をすればキッチリ金を得られるのは良い事だ。


「なるほど、冒険者にもそんな利点が」


「ま、その分怪我とかしたら全部自己責任だからどんな職業にも良し悪しあるんだよ」


「……なんだかタツミと話していると時々父と話している気分になります」


「へー、親父さんいくつなんだよ?」


「今年で40になります」


 それはそう思うのも無理ないわ。

 だって元々の俺と同年代だし。

 つか同い年でもうこんな年の息子がいるって、羨ましいなチクショー…!


「そっか、まあ確かにお前達と比べると俺は爺クサいかもな…」


「あ、別にそんなつもりじゃ…」


「いいよ、悪気がないのは知ってるから」




 




















◇◇◇後書き◇◇◇


今回も読んで下さりありがとうございます!

今回は閑話という事で短めとなっております!


皆様からのレビュー、応援、フォローをいつも嬉しく思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします!

それでは、また次回でお会いしましょう!

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