職人確保
「さて、探すか」
俺達は再び街へと繰り出した。
「まずは、先にサイクロプスの達成報告の為に管理部へ行きませんか?」
すると開幕早々にリリが返してきた。
「あれ? まだ行ってなかったのか?」
「達成できたのはカナタがいたから、ですからね。今回の報酬はカナタが直接受け取るべきだと思ったんです」
リリの屈託ない笑顔。
―――そういえば、昔の俺もこんな感じだったな。
『先輩のおかげで成功したので、自分は何もしてません!』
若さって、いいなぁ…。
「わ、わわわわわ、どうしたんですかカナタ?」
「いや、リリはそのまま真っ直ぐに育ってほしいと思っただけ」
俺は彼女の頭を撫でる。
どうか俺の様に諦める事のない人生を彼女が遅れますように―――。
俺はそんな願いを彼女に込めるのであった。
「けど、あんまり自分を下に見るなよ! リリにはリリの良さがある。誰にも負けない強さがある」
「あ、ありますかね…私まだそんな自信ないです」
「人の特徴っていうのは、そんなにすぐ見つかるものでもないさ。これからの長い人生の中で見つければいい。安心しろ、その律義さだけでもすでに俺よりは上行ってる」
「あ、あんまり喜んでいいか分かりませんね。それは……」
その言葉にムッとした俺はまた彼女の顔を引っ張る。
「可愛げのない事を言うのはこの口かー?」
「ひゃめてくださいよー!」
道を行く人々の視線を気にせずに俺は続けた。
やはりリリのほっぺには大変な癒し効果がありました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はい。確かに承りました。それでは、サイクロプス討伐による報酬となります」
そこには確かに金貨30枚の乗ったトレイが出てきた。
おお、初めて見る金貨……!
俺はその圧倒的な輝きに魅せられる。
そして同時にあの労力が報われたことに感謝する。
「……あの、どうかされましたか?」
「え、ああいえいえ何でもないです。……ただ、労働に見合った対価が支払われるのってとても素晴らしいなと感じて」
「は、はあ」
俺の言っている意味が分からないという様子で受付のお姉さんが言う。
それにしてもここの管理部では本当に色んな人が居る。
一番最初のスライムのお姉さん、それ以外にも
まだ確認出来るけど人種はこれだけだけど、この世界は本当に様々だ。
ただ、こういうのは本当に人種差別とかなくていいなと思う。
え、なんで他の人種の呼び名を知ってるかって?
愚問だな―――リリに教えてもらった!
「それにしても、カナタさんは凄いですね」
「そうなんですか?」
「駆け出しの方でサイクロプスを討伐される方は稀なんです」
「え、でも最低ランクでも受けられるって」
「あれは幼体ですからね。しかしサイクロプスはサイクロプス。駆け出しの方の多くが返り討ちに遭われる方が多くです」
先に言って欲しかった。
サイクロプスの習性の時のリリもそうだけど、ほんっとうに、先に、言って欲しかった!
「ま、まあなんとか……、色んな偶然のおかげで」
「そうなんですね。しかし、運と言うのも冒険者には必須のスキルです。きっとカナタさんには明るい未来が待ってますよ」
彼女の笑顔がひどく輝いて見える。
神様……いや本当に神様かは定かじゃないけど俺をここに呼んでくれてありがとう!
心の底から感謝します!
自由に休めて、ちゃんと報酬と対価が見合う。
決めた! 俺ここで冒険者しながら自由に暮らす!
俺はそんな軽い流れでこの世界での生き方を決めたのである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「んでー、リリ。建築系が得意な種族って何?」
「そうですね。やはり建築と言えば
土鋼人―――RPGとかでよく見る種族か。
そういえばここに来た時に子供くらいの体の人を見たけど、あれはドワーフだったのか。
「てことは、エルフとかもいるのか?」
「おお! カナタでも
「カナタでも、は言いすぎだよ…。けど、やっぱり居るんだな。その割にはこの国で見ないけど」
そう、ここは世界に7つある大国の中心であるケントルム。
人間種が一番多く暮らすとはいえ、色んな人種が暮らしている。
しかし、風漂人は見たことが無い……気が。
「エルフは基本的に自らの国から出る事を拒み。他種族との関わりはしたがらない方々ですからね。それに、国を出る者は風漂人の名を剝奪されるとも聞きます」
マジでか……。
はあ、やっぱり見ている世界はまだまだ狭いな。
「じゃあ、この国にも風漂人はいるのか」
「はい。あの方は風漂人ですね」
リリが指を差す方には耳の長い人が居た。
あ、そういえば見たことあるわ。
土鋼人と同じでここに来た時に見た。
そうか、そういえばゲームとかでもエルフって耳が長いのとか特徴だもんな。
学生の時以外でしてないから忘れてた。
「じゃあ、土鋼人に仕事を頼みに行くか」
「はい! それなら、私に心当たりがあります! 行きましょう」
自信満々なリリの後について俺は歩き出した。
土鋼人―――接しやすい人だといいけど。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そうこうして、俺達は土鋼人の元に赴いた。
「で、あんたらはその宿屋の修理をオレに依頼したいと」
俺達の前に居るのは、これでもかというほど絵にかいた土鋼人。
左頬にある傷、何があったと聞きたくなる眼帯、槌を振るう為に鍛え抜かれた強靭な腕、そして、俺達よりも小柄な体躯。
「金はあんのか? 冷やかしなら帰んな」
「金はある。金貨30枚までで手を打ってもらいたい」
俺は先ほど管理部で受け取った金貨の入った小袋を差し出す。
「ほお」
「カナタ。いいんですか、報酬をすべて渡しても」
「仕方ないだろ。まずはあの宿を直す事が先決だ。それに、その為にここまでやって来たんだからな」
俺は金貨を見る土鋼人の前でリリと話す。
確かにこの報酬をすべて差し出すのはもったいないとは思うが、それでも今の生活を続けるくらいの手持ちはこれまでの依頼であるし、なによりここで渋ってこの土鋼人に断られる方が面倒くさいからな。
「駆け出しにしては頑張ってるじゃねえか。おめえさん、名前は?」
「立見奏汰」
「ハッハッハ! 変な名前だな!」
土鋼人は大口を開けて笑う。
うん、もう自分の名前が異世界で異常なのは理解してるから大丈夫。
しかし、元の世界のお袋と親父よすまない。
あなた方のくれた名前はどうやらこの世界だと笑われてしまうようです。
「いいぜ。その依頼しかと受けた! 俺のやってる商会総出でその宿屋を直してやるよ!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
リリは俺よりも先に頭を下げる。
「そんな簡単に決めて大丈夫なのか?」
「ああ。あんたみたいに最初から全部出してくる潔い奴は大好きだ。それに、そっちの嬢ちゃんにはウチの若けえのが世話になってるからな。特別に金貨20枚で手を打つさ」
土鋼人は俺達に有利でしかない条件を提示してくれた。
しかし、リリが土鋼人の人と関りがあるなんて初耳だぞ。
「有り難い限りだ」
「いいって事よ。それよりも今後ともいい取引をしてくれると助かるぜ!」
「……ああ。そうさせてもらおう」
「よっしゃ、オレは土鋼人のカツジ・ノーガンドだ。今後ともよろしく頼むぜ」
こうして、俺達は次の目的である職人の確保をすんなりと終わらせることが出来た。
「しっかしリリが土鋼人に顔を知られているとは、いつの事だ?」
「カナタが寝ている間の事ですね。私、その時に鉄鉱石の採取依頼を受けたんです。その時の依頼人の方からあそこが一番腕の立つ職人の集まるところだと教えられました。まさかあの時の人がその商会に所属しているとは思いませんでしたが」
なるほど、それは確かに俺が知らないはずだな。
「けど、これでようやく準備が出来たな」
「という事は次は」
「ああ。悪魔って奴との戦いになるな」
リリは顔を強張らせる。
まあ確かに悪魔はこの世界だと伝説上の生き物みたいになって感じだしな。
「怖いか?」
俺はリリに聞く。
「怖いです。……でも、怖気づいては居られません。私だってもう覚悟は決めてます!」
リリの覚悟を秘めた瞳。
彼女もこれまでの依頼や、彼女だけで受けた依頼で強くなったらしい。
まあ元々一人でここまでくるようだし、頑固だし、精神力は強い方なのかもな。
「ま、気持ちを持ってくれてるのはありがたいが、せっかくだし、もうすこしゆっくりしよう」
俺はリリに言った。
そう、あくまでもこれまでの生活で俺達は宿屋を建て直し、悪魔と戦うまでの準備をしてきた。
しかし、スワロフさんの話を聞く限りでは悪魔はこちらから手を出さなければ動かない。
悪魔のくせに律義なのか、それとも別に理由があるのかは分からないが、まだ時間はあると言っても良いだろう。
「お休みを取る、ということですか?」
「まあそれもあるな。ここまで依頼尽くしだったし、それになにより、これからは一か月くらいの時間使って戦闘能力を向上させるとかな」
「なるほど……確かにサイクロプスに苦戦しているようでは、悪魔の相手なんて務まるはずがありませんね」
「そういうこと。それに、防具を整えるとかも出来るぜ。カツジのおっちゃんのおかげで思わぬ臨時収入も出来たし」
俺は十枚だけ残った金貨を見せる。
十枚とは言え金貨は金貨この世界での流通貨幣としては最高価値の物だ。
「そうですね。確かにここしばらく根を詰めていたのかもしれません。私もゆっくり地道に行こうと思います」
リリはそう納得した。
一か月―――以前では考えられなかった休みだ。
それに、さっき管理部でちょうど良い張り紙も見たしな。
「カナタ」
「ん? どうした?」
リリが突然俺の名を呼ぶ。
そして、俺の前に出た。
「私と一緒にいてくれてありがとうございます!」
そう言った彼女の姿は、夕日に照らされとても綺麗だった。
まるで絵画に描かれた登場人物がそのまま飛び出してきたような美しさに、俺は思わず息を吞んでしまう。
「な、何恥ずかしい事言ってんだよ…!」
「あれぇ~、カナタ、顔が赤いですね~! 私は異性として見られないんじゃなかったんですか~?」
ここぞとばかりに俺をからかうリリ。
俺は帰り道、ウザいくらいに絡んでくる彼女と共にスワロフさんの待つ宿屋へと帰宅したのであった。
◇◇◇後書き◇◇◇
今回も読んで下さりありがとうございます!
もしも面白いと思いましたら、評価と応援、フォローの程よろしくお願いいたします!
それでは、また次回で!
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