討伐依頼

 とりあえず買ったのが剣だから、剣術スキルは全取得必須だな。

 せっかくチート級のポイント数とスキルもある事だし。

 俺は真っ先に剣術スキルのすべてを取得した。


「やっぱ変化はないよな。そりゃあそうか」


 初めて実戦関連のスキルを取ったから肉体的に変化があるかと思ったけど、そんな事はなくそこには変わらず中肉中背の俺がいるだけだ。

 どうせなら目に見えて分かる変化とかなら助かるんだけど、やっぱり実際の効果は確かめてみるしかないか。

 

「それにしてもリリは嬉しそうだったな」


 あの後宿屋に戻った後もリリはムチを輝いた目でずっと眺めていた。

 どうして彼女がそこまであのムチに感動しているのか分からないけど、今日あの商店街で武器を見つめていた俺も俺だから案外人の事は言えないのかもしれない。


 明日からはいよいよ討伐依頼を視野に入れた活動。

 睡眠不足で不覚を取るなんてことが無い様にと思い、俺は眠る事にした。

 まあ、スキルが強いだけで実戦経験なしの俺が不覚を取るも何もないかもしれないけどね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日。

 俺とリリは朝早くから管理部に顔を出していた。


「俺達クラスの冒険者だとどんな依頼が無難かな?」


「そうですね。私達ランク12の冒険者が狩れる魔物の指標としてはよく暴豚ストレンピッグが使われると本で読みました」


「ストレン、ピッグ…?」


「野生に生息している豚です。凶暴性と体格から飼う事は禁じられていますが、そのお肉はとても美味なので料理人の方が依頼を出されることが多いそうですよ」


 リリのそう教えられる俺。

 この世界に来てから知識面では彼女に助けられっぱなしな気がする。

 俺リリがいなかったらその辺で野垂れ死んでたんじゃねえか?


「じゃあまずはその暴豚とやらの依頼でも探すか」


「ありますかね? さっきも言ったように暴豚の依頼は駆け出しの指標として有名なので結構すぐにられちゃうこともあるらしいです」


 物騒な世の中だなおい!

 俺はそう言いたかったが、前の世界でも出世競争とかで他人の手柄を自分のものにして自分のミスを人に押し付けるとかよくあったからもしかしたらその点はどこでも一緒なのかもしれない。

 主にクソ上司とかクソ上司とかクソ上司とか…!

 俺は前世でのあのクソ部長に怒りを覚えながらも依頼板を見る。

 まあ、さっきリリに言われた通り暴豚の依頼は見る限りない。


「ねえな」


「ありませんね…」


 リリは苦笑いで俺に返す。

 やはり競争倍率の高い依頼とだけあって張り出されるとすぐに取られるようだ。

 しかし、気になる事もいくつかあった。


「けど、難易度の高い依頼はいくつも残ってるんだな」


 そう、それは俺達のランクでは受けられない、高ランクを要求する依頼が数多く張り出されており、尚且つそのほとんどが手すら付けられていなかった。


「報酬も良いのに、どうして高ランクの冒険者は何もしないんだ?」


「ランクが高くなると国王様やその臣下の方から直接依頼を出されることが多いですから、管理部に顔を出す人が居ないんですよ。なので、管理部に来る人の多くは駆け出しなんです」


 なるほど、自分たちが最優先で、管理部に依頼を出すような奴の事は下請けがしろって事ね。

 あー胸糞悪い。

 

「とは言っても、これだけ多くの依頼があるんだから少しはしろよな……ん?」


 俺は文句を言いながらも手頃な依頼を探す。

 その時、一つの依頼が目に留まった。

 俺達最低ランクでも受けられる、種別は討伐、報酬額も金貨30枚と破格。


「なあリリ、これ受けてみないか?」


 俺はその依頼書を手に取ってリリに見せた。

 依頼書の内容は『サイクロプスの幼体討伐』。

 いくらオッサンの俺でもサイクロプスくらい知っている、あれだろ? ひとつ目で手に棍棒持って力自慢な奴だろ?


「さ、サイクロプスですか……確かに幼体なら私達でも討伐できるかもしれませんが―――」


「だろ? 他に俺達みたいな駆け出しが受けられる討伐依頼もないし。これにしようぜ」


「か、カナタ……無理はしなくていいんですよ?」


 リリは何故かモジモジしている。

 多分このリリの感じからして怖いというわけじゃないみたいだが、一体この依頼のどこにモジモジする要素があるのだろうかと思いながらも俺は窓口に持って行く。

 その時も何故か受付のお兄さんは信じられない物を見る目で俺を見られた。


「ほ、本当に貴方がこの依頼を受けられるんですか?」


「……? はい、正確には向こうにいる連れと一緒なんですけど、何か問題ありますか?」


「い、いえいえ! 問題はありません! それでは、こちらの方から依頼人には受理された旨を伝えておきます。加えまして明日にこちらの場所までの馬車を用意しますのでしばらくお待ちください!」


 ……えらく動揺するお兄さんだな。

 つかリリもそうだけど、サイクロプスってそんなにヤバい魔物だったりする?


「あと、これは僕からの忠告ですが、くれぐれも、捕まらないでください…!」


 お兄さんの切実とも言える願いを受け、俺とリリは管理部を後にした。

 そして、宿屋に帰還した後、俺達はスワロフさんに事のあらましを話した。


「そうですか、お二人が先日武器を購入されて帰ってきたときはもしかしたらとは思いましたが……討伐依頼を受けられたのですね」


「ああ。いつまでも安全な依頼ばかりじゃ埒が明かないからな」


「スワロフさんは安心して待ってて下さい」


「……もう私はお二人にすべてを託した身です。ご武運をお祈りしております」


 スワロフさんは俺達にそう笑いかけた。

 俺は彼にグーサインで返す。


「カナタ。何ですかそのポーズ?」


「あ、これか? これは、そうだな……任せろって言うときとかやったー! って思った時に相手に見せる合図? みたいものかな」


 俺がリリにそう返すと、リリは真似してグーサインをスワロフさんに見せた。

 そんな彼女にスワロフさんは笑っている。

 この光景だけ見ていたら明らかに祖父と孫の姿である。


「時にカナタ様。どんな魔物の討伐に行かれるのですか?」


「あ、そ、それは…」


「サイクロプスの幼体」


 リリは何かを思い出したように顔を赤くする。

 そしてスワロフさんはというと目を見開いて俺を見た。

 え、マジで何なの…?

 結局俺の疑問は解決しないまま翌朝を迎え、俺達は初の討伐依頼に赴いた。























◇◇◇後書き◇◇◇


今回も読んでくださり誠にありがとうございます!

今回はいつもより短い文字数となっておりますが、もし良ければ評価とフォロー、そして応援の程よろしくお願いします!


それでは、また次回で!


 





 







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