第3話 とってもズルい



 下校時間だ。

 生徒も近所の住民も、それなりの人達が行き来している。

 

 決して2人きりではない。

 そう思えば、安堵したのか残念なのか。

 よく分からない吐息が漏れた。



 2歩分先に、アイツが居る。

 昨日繋いだアイツの手がある。


(伸ばしても多分ギリギリ届かない、かな……?)


 そんな風に目算をつければ、「まるで自分がアイツと手を繋ぎたいみたいじゃないか」と思い至った。

 

 離れているし、アイツがこっちを向いている訳でもない。

 なのにまた心臓が煩くなった。


(いやいや別に繋ぎたいとかじゃないし。そんなんじゃないもん。うん、そんなんじゃない)


 まるで呪文でも唱えるかのように、自身の中で否定する。

 

 そうしてやっと少し落ち着いてきた時だった。


「おい。手、貸して」


 立ち止まったアイツが振り返る。



 突然立ち止まったので、2人の距離は私が一歩多く歩いてあと一歩分。

 手を伸ばせば、届く距離。


「なっ、何で」

「だって手、繋ぎだそうにしてたから」


 私は「何でお前に手を貸さなきゃいけないんだ」と言おうとしたのに、アイツはその「何で」を「何で分かったのか」と言おうとしたと思ったみたいだ。


 しかし今の私に、それを指摘する精神的余裕は皆無だ。


「おっ! 思って、ないし……」


 そう言って視線を逸らせば、アイツから吹き出すような笑い声が聞こえてきた。

 見るとアイツが、何だかとっても嬉しそうな笑顔を顔に浮かべている。


「お前って考えてる事、そっくりそのまま顔に出るよな」


 そう言って、アイツは再度私に手を要求してきた。


「なっ、何で私がアンタに手、あげなきゃいけないの」

「俺が欲しいから」

「なぁっ?!」


 サラッと告げられたそんな言葉に、ガッと一気に体温が上がる。


「何言ってんの?!」

「だってお前、俺が素直にならないと何にもできないだろきっと」


 まぁ、それは確かにそうかもしれない。

 今更というか何というか。

 恥ずかしさが勝ってしまう。

 


 私はソッと、手を差し出した。

 するとアイツがギュッと握って、手を引っ張って歩き出す。


「……何か余裕な感じがめっちゃ腹立つ」


 私のそんな呟きは、どうやら聞こえたようである。


 重なった手からアイツの笑う気配がして、何だかとてもズルいと思った。

 私1人が翻弄されて、とってもズルイと言いたくなった。


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