第13話『チェーン・リアクション』

 隣の薬局でお薬を貰って、すぐに飲んだ。


 お薬の名前は『アシクロビル』……抗ウイルス薬だ。


 前回『もりもっちゃん』こと盛元もりもと先生がおっしゃっていたが、帯状疱疹のお薬は可能な限り(三日以内)早目に服用するのが原則だ。 水痘・帯状疱疹ウイルスは免疫力が低下すると爆発的に増殖するので、その前に叩く必要がある。


 それにしても『ビル』とか『ランジル』とか、お薬の名前って本当に面白い(←不謹慎)


 さてさて、ここからが大変だった。


 何せ『帯状疱疹』の発症時には上記の『水痘・帯状ウイルス』をばら撒いてしまい、他の人に感染うつしてしまう恐れがあるので、タクシーにも乗れない。


 仕方なく、自転車を転がして、えっちらおっちらと歩いて帰る事にした。


 途中で休み休み、1時間半近くかかった。


「真優……大変だったわね(泣) ゆっくりね! 後でご飯持って行くからねっ!」……母が早口で言った。


 帰る前に母には伝えたが、母は四十代後半、父は五十代だから帯状疱疹に罹患する危険は大いにある。 極力、接触時間や会話を減らす必要があるんだ。


 部屋に入って、痛むお腹を見ると……


 う わ っ !


 左の側腹部から腰にかけて、ポツポツと赤い発疹が出現あらわれていた!


 ほ、本当に帯状疱疹だったんだ……


 私は自分のお腹を見ながら、暫く呆然としてしまった。


 ……これって……やっぱり……ストレス?


 ベッドに横になり、スマホで必死に原因を調べた。


『帯状疱疹の原因は、加齢・ストレス・過労・風邪等による免疫力低下です。 予防にはワクチンが有用です』


 ……ですよね……。


 さらに、次の文言を読んだ時、思わず『こ、これだぁ!』と声が出てしまった!


『若年者の予防には、栄養を摂る・疲れを溜めない・そして


 睡 眠 !


 そうだった!


『冠攣縮性狭心症』に罹って、ニコランジルによる頭痛の副作用が収まらない頃から、睡眠不足になっていた。


 ここ数ヶ月、雪崩のように体調が崩れ、自分の身体に何が起こっていたか不思議に思っていたが、実は全て『連鎖チェーン・リアクション』していたんだ。


 ……盛元先生に電話で相談すると、ニコランジルは中止して『ニトロールスプレー』を処方してくれる事になった。


『ニトロールスプレー』は『ニトログリセリン』を含む頓服薬で、狭心症の特効薬だ。


 良くドラマで、初老の富豪か誰かが『む、胸が痛い! く、薬を……』とか言って、奥さんか家政婦さんが薬を差し出すと、それを口に入れる……というシーンがあるが、それが『ニトログリセリンの舌下投与』だ。


『ニトログリセリン』は爆薬にもなるが、血管の拡張作用があるので医薬品にもなる。 しかし、経口摂取……飲んでしまうと薬効が無いので、舌の下に投与して、皮膚から吸収させる必要がある。


 余談だが、ニトログリセリンを使用してダイナマイトを発明した『ノーベル』が、晩年、心臓を患って、ニトログリセリンを薬として使っていた……という逸話が残っている。


 現在では、より早く効果が表れるようになった。 それが今回、私が処方された『ニトロールスプレー』だ。


 家の近くの薬局に処方箋をFAXして貰い、母にニトロールスプレーを取りに行って貰った。 これがあれば、また狭心症の発作が起きても安心だ。


 ……この日から、頭痛がピッタリと止まった。


 本当に久しぶりに熟睡出来たのは言うまでもない。


 長かった私の病気遍歴も本章でやっと終わり、次章からは『健康推進課』の新規事業が始まる!




 ……と、私も作者も思っていた矢先……


 私の病状が、ますますとんでもない方向に向かって行くとは、全く想像も付かなかった……。

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