第12話『もりもっちゃん』登場!

 患部を触った時、こすれて痛かった。 ……この痛みは内臓じゃ無い! だ!


 急いで白衣ケーシーのチャックを開いて状態を見ようとしたが……


 危ない危ない! また墨台さんの前でお肌をさらけ出してしまうところだった(危)


 ふらつきながら奥の休憩室でチャックを下ろし、Tシャツをめくって激痛が走った場所を見てみると……


 ん?


 何も……無い……。


 触ると物凄く痛むが、出来物できものどころか、皮膚の色の変化すら無い!? どーゆーこと?


「遥さん、どう? 大丈夫?」……隣の部屋から墨台さんの声が聞こえた


「は……はい……だ、大丈夫でぇす」


 と、急いで服を整えて検査センターに戻ったが、痛さで意識が朦朧もうろうとしている。


 ……女は痛みと出血には強いはずなのに、この痛みは想像を遥かに越えている!


「顔色悪いよ……まだ病み上がりだし、頭痛だって治まってないんでしょ?」墨台さんが、椅子を勧めながら心配そうに言ってくれた。


 確かに、頭痛を忘れる程の痛みで、仕事どころでは無さそうだ。


 背に腹は代えられない。 午後休をとって、皮膚科に行こう……。


 墨台さんに謝って、自転車で家の近くの皮膚科に行こうとしたが、服が擦れる度に痛くて痛くて! 身体がちぢこまってしまうほどだ。


 ……これでは危なくて自転車には乗れない。 急いでクリニックの駐輪場に引き返した。


「遥さん! 大丈夫!? お腹痛いの?」 ……ちょうどお昼休みから戻って来たクリニックの看護師、玄田くろださんが、私の異常に気付いて駆け寄って来た。 


 事情を説明すると「『帯状疱疹』じゃない?」と言われた。


『帯状疱疹』とは、『水疱瘡みずぼうそう』にかかった事がある人の体内に、その原因である『水痘・帯状疱疹ウイルス』が潜んでおり、加齢で免疫力が低下することにより再発・悪化する病気で、50歳代以上に多い。


 帯状疱疹が発症すると、真っ赤な発疹が出現し、それは神経に沿ってあらわれるため、想像を絶する痛みになるという。


 例えると『アトス、アラミス、ポルトス』の『三銃士』に『ダルタニアン』が加わって『四銃士』になったように『心筋梗塞、群発頭痛、尿管結石』の『三大激痛』に『帯状疱疹』が加わって『四大激痛』になったようなものだ!


 なんて冗談を言っている時と場合では無い。


 普通なら、私の歳では発症しないし、現に疱疹ほうしんの『ほ』の字も出現していない!



 玄田さんが「なに言ってんの! 最近は若い人の帯状疱疹も多いのよ! みーんな疲れてんの! 今なら内科の盛元先生もりもっちゃん居るから診て貰いなさいな」 と言いながら私を支えたかと思ったら、手際良く移動させられ、気付けばクリニックのベッドに寝かされていた。


 盛元もりもと先生はクリニックの内科の先生で、おハゲさんだがとても優しく、みんなから『もりもっちゃん』と呼ばれて好かれている。


「遥さんも大変だねぇ……いや、本当に申し訳無い」


「いえ、こちらこそ申し訳ありません(汗)」


 ……先生も私も、何を謝っているのか分からないが、何かいつもこんな感じだ。


「じゃ、お腹診せてね……痛い?……うん……帯状疱疹だね。 急いでお薬飲んで。 玄田さ〜ん、薬局に処方箋を届けて……って、まだ患者さん居ないから、わたし持って行くよ。 玄田さんは、お茶でも飲んでゆっくりしてて。 じゃ、遥さん、お薬は一週間、朝、昼、晩……食後にちゃんと飲み切ってね。 早ければ早いほど治りが良いから、貰ったらすぐに飲んじゃって。 ……ん? ご飯まだなの? じゃあ、そこの冷蔵庫に菓子パンとミネラルウォーターが入ってるから、それ食べてからお薬飲んで、帰って休んで。 一週間は安静にね。 じゃ、お大事に……」


 ……


 ……何か、あっという間に帯状疱疹と確定診断されてしまった……。


 盛元先生がおっしゃるんだから間違い無いんだろうが、私はまだ半信半疑だった。


 玄田さんが、お皿に乗ったとミネラルウォーターを渡してくれた。


 ……!


 か、菓子パンって……、こ、これ、かの有名な水越百貨店の『並んでも買えない』でお馴染み『エクリエーヌ・オゥ・カシュー・カラメルオランジェ』!?


「こんな高価なスイーツ戴けません! コンビニでおにぎり食べてからお薬飲むから大丈夫ですっっ」と慌てて立ち上がったが、玄田さんが……


「良いのよ! 戴き物らしいけど、盛元先生もりもっちゃん、ダイエット中だから……って持って来てくれたの。 ……あんまり数は無いから内緒にね🤫」


 こんな超高級スイーツ、一生に一度食べられるかどうかだ! 本当なら、これにミルクティーがありゃサイコーなんだけど!(←呑ん兵衛っぽいせりふ)


 最上級のお礼を言った後、外来の休憩室をお借りしてご相伴にあずかった。


 頭痛と側腹部痛が交互に襲って来るが、この美味しさは……ほっぺが落ちるほどだ(←語彙力……)


 こんな状態でも美味しさが判る自分が、ちょっとありがたく思えた。



 ……それにしても、私、本当の本当に『帯状疱疹』に罹っているのか、どうしても信じ難かった。

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