第8話『満員電車』

 はっしーにCTと胸部ブルストX-Pレントゲンを撮像して貰い、ついでに『ABIエービーアイ(足関節上腕血圧比)』も測定してもらった。


『ABI』とは、両腕血圧・両足首血圧・心音を同時に測定して、動脈硬化の有無や血管年齢を推定する検査だ。


 私の血管年齢は『20歳未満』!


 院長が「こんなの無い(←ダジャレ!?)初めて見たよ! 遥さんは殺陣たて以外に何か運動やってる?」と聞いてきた。


 以前から何回か言っているが、私は私の表情から検査結果を読み取ろうとする患者さまの前で平静を装う練習のため『劇団あみ〜ご』に所属している。

(本作の姉妹編『はい! 「はるか」です! 新米臨床検査技師の奮闘記』第4章『スポットライト』をご参照下さい)

そこで文武両道の偉大な王女『カモミーユ』役を演じたり、町野中央病院グループのスポーツ大会(正確にはeスポーツ大会)で剣を振り回す『ぶいあーる』競技をしたり

(こちらも『はい! 「はるか〜」の第9章『剣』と『銃』!?』をご参照いただけますと幸甚でござりまする〜〜m(_ _)m)

した事を、院長は言っているんだ。


「いえ……運動は全くやっていませんが、自転車通勤しております……」


(※作者注:後から知った事だが、私はお酒やタバコをたしなまない上、毎日、母の手作りご飯を食べている。 この栄養バランスがとても良かったらしい。 この場をお借りして、母に感謝の気持ちを伝えます。 お母さん、ありがとう!)


「そうかぁ〜、確かに自転車は良いね! 通勤で使っているなら、半強制的に運動させられているようなものだから尚更良い! わっはっは!」


『人が「頭が痛い」って苦しんでるのによく笑っていられますね! 』


 ……なんてことは思っていてもけっっっして口に出せない私は、ささやかな抵抗として院長の言葉には敢えて反応せず……


「あの……私の頭痛の原因って何なのでしょうか?」と聞いてみた。


「それね『ニコランジル』の副作用なんだよね」


 ふ、副作用〜!?


 ……以前説明したが『冠攣縮性狭心症』は、文字通り心臓自身に酸素や栄養を送る『冠動脈』が何らかの原因で収縮して血液が流れなくなる病気で、そのまま放置すると心筋が壊死してしまう危険がある。


『ニコランジル』は血管を拡張し、血流量を増やす作用があるので、流れが滞った冠動脈を再び拡げる為の第一選択薬とされている


 の だ が !


 血管が拡張すると臓器は膨らむ。


 特に、脳は周りを頭蓋骨で囲まれているので、血流が増えると脳圧が上がり、まるで満員電車に乗っているかのようになり、頭蓋骨に脳が押し付けられて猛烈な頭痛を引き起こしてしまうんだ!


 それに加え、院長が言ったように、私の血管は、まだ靭やかなので、血管拡張による膨隆が良好で、痛みが倍増してしまう……との事だった。


「暫くニコランジルの投与は続けなきゃならんから、頭痛薬出してあげるね。 それで様子見て」……と言いながら、院長が電カルに、テレビCMで良く観る名前の頭痛薬を追加入力してくれた。


 八代さんとはっしーに、再びHCUに移送して貰ったのだが、はっしーが目を真っ赤に腫らしながら上着の袖で涙を拭っていた。


 ……確かに以前、私のもう一人の大親友『近江美緒みお』が緊急入院した時も驚いたっけ……。

(本編第4章『自殺企図』をご参照下さい)


 頭痛に加え、いつも明るいはっしーのこんな表情を見ているのが本当に辛くなり、 私は目を閉じて、心の中で何度も何度もはっしーに謝った。

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