第2話 灯火

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『ヴァレンティエ共和国』とその隣国『セディナス共和国』は紛争が絶えなかったが、大国『合州ごうしゅうユニリア国』がヴァレンティエ共和国に協力すべく武力供与した事で事態が動いた。


 セディナス共和国と蜜月の関係を築いて来た『トゥマール連邦』がセディナス防衛の名目で派兵し、最早もはや大国間の代理戦争の様相を呈していた。


 紛争はやがて他の地域にも飛び火し、海上封鎖や戒厳令が敷かれ、戦禍は一般人を巻き込む事態に陥っていた。


 ……そう……その魔の手が、とある小さな検査センターにも忍び寄っていたのである……。

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 PCR検査センターに出勤すると、検査資材のおろし問屋さんから緊急FAXが届いていた。


『検体採取用スワブ 出荷調整のお知らせ』


 ……出荷調整?


『ヴァ・セディ紛争』で船舶の往来が制限された上、原材料であるポリエステルの入手が困難になった……と書かれていた。


『スワブ』とは、プラスチックや紙製の細い棒の先端に綿球が付いている、平たく言えば綿棒で、新型サターンウィルスの検査の際に患者様の鼻や口に挿入して粘膜や舌苔ぜったいを採取するためには必要不可欠な資材だ。


「う〜〜〜ん……まさかスワブが出荷調整とはね……」……と、墨台さんが『出荷調整のお知らせ』を見ながら渋い声を出した。


 ……元々渋い声だが、今回の声は『渋柿』の方のだ。 『出荷調整』と言えば聴こえが良いが、とどのつまりは『出荷停止のお知らせ』である。


「『町野』の関連施設に配った分を抜くと……在庫は800本弱……です……。 スワブは簡単に入手出来ると思っていた私のミスです……申し訳ありません」


「遥さんのせいじゃないよ。 それよりスワブの残数を手分けして調べよう」


「はい!」



 ……検査や検体採取の合間に調査した結果、検体採取が可能な日数は……


13日……!


 このままでは2週間たずに、スワブが底をつく!


 当然だが、検査は患者さんの検体が無ければ始められない。


 まさに『風前の灯火ともしび』!


 ……真綿で首をめられる思いがした……。

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