第15章 危機

第1話 限界

 ……その日は突然訪れた。


 しばらく鳴りを潜めていた新型サターンウィルスの再流行が始まったんだ。


 通常、感染症は数日から数週間かけてじわじわと広がるのだが、今回の感染は同時多発的に多数の感染者が発生した。


『感染爆発』と呼ばれる状態ではあるが、ここまで急激な『爆発』は異常だ。


 市井しせいでは『ウィルスの感染が収まった』という、全く根拠の無い安心感が漂い、厚労省が推奨していた感染予防策にも気の緩みが出始めた矢先だった。


 当初、感染経路のトレースや『スーパースプレッダー』と呼ばれる、自覚せずに感染拡散を引き起こす人物の特定を進めていた保健所も、感染者の登録や健康観察の業務に追われ悲鳴を上げていた。


 病床使用率は逼迫し、感染爆発を止める事が不可能な状況に陥ってしまった。




 私達のPCR検査センターも、以前にも増して検査数が激増し対応しきれない程だった。


 町野中央病院の先輩方に再びヘルプを要請したが、それでも足りず、別の系列病院からも応援に来て戴いた。


 ……しかし……例によって、急遽ヘルプに来てくれた方の半数は、PCR検査ほど感度が高くない『抗原検査』で陽性が判明し、当然お手伝いをお願いする事は出来ない為、そのまま帰宅して頂いた。


 やはり、病気の方々かたがたが集まる『病院』や『クリニック』は感染リスクが高い事を思い知らされた。



 連日の疲労が蓄積し、私は墨台さんに「……今度こそ……いよいよマズい状況ですかね……」と弱音を吐いた。 


 ……ここでいつもなら墨台さんの頼もしい笑顔とサムズアップが登場するのだが……今回は違った。


「……この『波』は、今までとは全く違う。 ……俺は、こういう言い方をするのは好きじゃないんだが……」


 ……この時の、およそ墨台さんらしくない言葉に、私は思わず息を飲んだ……。


「……そろそろ……限界かも知れない!」

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