第3話 秒読み

 ……そのかんにも、検査依頼の電話が引っ切り無しにかかってくる。


 そんな中、新たな問題が発生した。


 PCR検査試薬とサターンウィルス抗原検査キットも出荷調整がかかってしまったんだ。


 ……メーカーさんの話では、こちらも次の納入時期が全く不明だと言う。


「……」


 私は言葉も無く、ただただ項垂うなだれた。


 検査キットに関しては、多少余裕を持って発注していたので、スワブ程の危機的状況ではないものの、潤沢に有る訳では無い。 ……今のままの状況が続けば……


 残り1ヶ月以内に全て無くなる……。


 ……隅台さんが言った『そろそろ……限界かも知れない』……って言葉が現実になろうとしていた。




 昼休み……


 食欲が無く、休憩コーナーでぽつんと座っていたら……


「ど〜ぞ」 ……と、隅台さんが私の大好物のミルクティーを差し出してくれた。 


 私は声が出ず、無言で頭を深く下げてお礼をした。

 

「少しだけ、はなしさせてね。 ……以前、俺が『DMAT』に所属していたのは知ってたっけ?」


「……」と、私はコクンと頷いた。


『DMAT』……Disaster Medical Assistance Team……医師、看護師、コ・メディカルで構成される、大規模災害や多傷病者発生時に急行し、人命救助を第一の目的としたスペシャリスト……『災害派遣医療チーム』の略称だ。(本編 第13章『パンデミック』第2話『チーム』をご参照下さい)


 ……私は辰巻部長からその話を聴いていた。


「少し前に『六道島』で大地震があったのを覚えてるかい? ……あれは酷かった……。 何せ木造家屋が多く、津波も発生して最終的には島民の約1割の方々が亡くなってしまった……」


 ……確かに、このニュースは連日報道されていたので私も覚えている。 隅台さんはあの現場に出動していたんだ。


「……地震の発生日10 月23日に、俺は……いやは可能な限り六道島に献花に行くようにしている。 俺たちが人たちに謝罪する為に……ね……」


 ……!? 殺し……た……?


 驚いて隅台さんを見ると、暗く苦しげな表情を浮かべていた。 それは隅台さんが初めて私に見せる表情だった。


 ……一体……何があったの?

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