第6話 潮時

『頑張ってサボる』


 今迄そんな生き方をして来なかった私は、正直、戸惑っていたのだが……


 実は、私が復帰したその日から、サターンウィルスの検査依頼がパッタリと途絶えてしまった。


 ……恐らく国を挙げておこなって来たワクチン接種や感染対策が奏功したのだろう。 新規感染者数が激減していた。


 その後、大型連休があり、数週間後にリバウンドが懸念されていたが、感染者数は上昇しなかった。


『頑張ってサボる』どころの話ではない。 仕事が無いんだ。


『仕事は自分で見付けるもの』……と怒られるかも知れないが、臨床検査技師の仕事は『医師の具体的指示のもと、必要な検査のみを行う』……と法律に定められている。


 道行く人に声を掛けて『検査して行きませんか? お安くしますよ〜♡』等と客引きするなど、言語道断だ。← 当たり前


 PCR検査センターの人員も余剰になり、私の体調がだいぶ回復したこともあって、町野中央病院の検査室からの応援は終了になった。


 五木技師長が……


「『早くPCR検査センター専属の技師を入れてくれ』……と事務長に会うたびに言っているんだが、このご時世で、誰も検査業務をやりたくないから応募がないんだと。 ……このままサターンが終息したら、早く町野に戻って来てくれよ」


 ……と言ってくれた。


 胸が熱くなった。 


 ありがとうございます。


 ……でも……ごめんなさい……。


『もう……潮時かな……』


 そんな考えが浮かんでいた。


 ……以前から度々書いているが、私は元々漫画家志望だった。


 親から30歳までは好きな事をして良いが、その代わり手に職を付けるように言われ、偶然目にしたのが『臨床検査技師』だった。


 資格を取り、成り行きから今の職場で働いているものの、親が言っていた30歳になる迄には、まだ数年ある。


 検査の仕事が嫌いな訳では無い。 また『仕事が無い』と言っても、検査室で遊んでいられる程、暇を持て余している訳でも無い。 


 ……私が『臨床検査技師を辞めるべきだ』と思った理由は、心の中に、ある恐ろしい考えが芽生え始めたからだ。


 それは……


『サターン禍が……続きますように』


 ……こんな考えをする私は、もう医療従事者の資格は無い。

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