第11話『クシュクシュ』
矢も楯もたまらず、PCR検査センターに電話しようとスマホを探したが見当たらない。
母に聴くと、辰巻部長の指示で産業医との面談が済むまでは仕事を忘れて休養するように……と、今は母がスマホを預かってくれている……と言う。
それを聴いて、焦燥感が少し落ち着いた気がした。 ……もう夕方だし、今更ジタバタしても、過ぎた時間は戻らない。
部長のお言葉に甘えて、部屋に戻って再びベッドに横になった。
眼の奥が痛くて、目を閉じていると楽ではあるが、色々な考えが頭に渦巻いて、とてもじゃ無いが眠れない。 それに、15時間以上も寝てたから、身体がこれ以上の睡眠を欲していないんだろう。
『コン、コン、コン』……とノックの音がして、母が食事を持ってきてくれた。 ……オートミールと、湯冷ましのお白湯だった。
「……あまり刺激が無い方が良いと思って薄味にしてあるから、何か足りなかったら言ってね」……と言ってくれたが、絶妙な味付けで、更に空腹も手伝ってか、母の目の前で、あっという間に平らげてしまった。
「……誰かから、私に連絡来た?」……と聴くと……
「……さっき、部長さんがいらして、何度も謝ってたよ。 それと一週間は連続で休めるから、ゆっくりさせて……って言ってた」
一週間! それはまた長いな!
「……
……町野中央病院もサターン患者さんの受け入れをしていて、一般患者さんの受け入れを制限しているから、業務に差し支えのない範囲で、PCR検査センターに来てくれる事になったそうだ。
「それと……部長さんが褒めてたよ! 真優が
……墨台さん(育児休暇中)と、遊び半分で作っていた『おサルさんでもわかるPCR検査』が、まさかこんな形で役に立つとは! (実際には専門用語が多く、一般向けでは無かったが、臨床検査技師なら理解して貰える仕様になっていた)
「……何かやって欲しい事ある?」……と、母が優しい声で聴いてくれた。
……その声は、私が小さい頃、風邪で休んだりした時と変わらない、慈愛に満ちた声だった。
「……頭……マッサージしてくれる?」……と、私は遠慮がちに言った。
子供の頃、私が兄貴と騒いでいたりして眠らない時、母に頭のマッサージをされると、数分で寝落ちしたのを思い出したからだ。
……母の
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