第10話 泥

 ……ふと目が醒め、時計を見ると……


 4時だ。


 まだ、あと2時間は眠れる〜♪


 あれ? なんか……お腹空いたなあ……でも、それより今は、もう少し寝ていたい。


 ……それより、喉が渇いちゃった。 お水だけでも飲んでから、もうひと眠りしようかな。


 部屋を出ると……


 ……? やけに明るい……?


 ……これ……何かが……変だ!


「真優! 大丈夫!? お腹空いたの?」


 お母さん……


 ……ん!?


 ……!


 そうだ! 思い出した!


「お母さん……今、何時?」


「夕方の4時よ。 ……でも、今はそんなの気にせずに、ゆっくりして。 ……ご飯なら持っていってあげるから……」


 ……私、15時間以上寝てた……。


***********


 昨晩、私は検査センターで少しの間、立ったまま意識を失っている間に、辰巻部長から何回も連絡があったらしい。


 ……ヘルプに来て下さったかたが、私の反応が鈍っていたのを心配して辰巻部長に連絡してくれていたそうだ。


 ……辰巻部長が2時間以上かけて、東戸クリニックPCR検査センターに来てみると……


 私が目を真っ赤に腫らし、しゃくりあげながら泣いている姿を発見した!



 ……辰巻部長は、私がこのまま勤務を続けるのは無理と判断し、すぐ家に電話連絡をして、父に来て貰った。


「娘さんのメンタル面の変化に気付かず大変申し訳御座いません」……と平身低頭で謝った辰巻部長に父は……


「……自身の管理が出来なかった真優まゆにも責任はあります」……とだけ言って、頭を下げた。


 ……ずっとあとから聞いた話だが、父はこの時……


「俺の大切な娘を、何故なぜここまで追い詰めた!」


 ……と、こみ上げて来る怒りを、必死に抑えていたそうだ。


 父が言った通り、自己管理出来なかった私が一番悪いのに、あの温厚な父をそこまで怒らせてしまったとは……。


 ……本当に皆さんに迷惑をかけてしまった。


 そして辰巻部長から「数日間、有給休暇を使い、その間に『産業医』と面談して下さい」との指示があった。


『産業医』……どの企業にも必ず定められている、職員の健康管理を担うドクターで、職員の健康を守るための『勧告権』を有している。 当然、私のようなメンタル面の、健康の見極めも『産業医』の範疇だ。


 私は部長に……「……では明日、引き継ぎだけでも……」……と言うと……


「そんなのは気にせずに、とにかく休みなさい!」……と、部長と父に、同時に言われてしまった。


 

 その後、帰宅して……私は泥のように眠ってしまったんだ。


 *****


 ……今日……検査はどうなってるんだろう?


 今、この瞬間にも、サターン禍で苦しんでいる患者さんがたくさんいる! 私、こんな所で、のんびりしている場合じゃない!


 ……焦りと苛立ちが私の心を占めていた!

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