第5話『医療崩壊』

 昼食を食べ終わる頃、グループ内の検体が到着した。 ……100件分? 予定では300件くらいの筈では?


 検体を持って来た看護師さんが、かなり疲れた顔で「……実は、職員が多数感染して自宅待機になっちゃったんです……」と言った。


 ……!


 ……これこそ、私達が恐れていた『医療崩壊』……最悪の事態だ。


 職員の感染が判明した場合、院内感染を防ぐため自宅療養させるか、症状がある場合は入院措置をとる。


 必然的に人員が減るから、当然、看護ケアが疎になってしまうのだ。


 ……事実、今回職員の感染が判明したグループ内施設はご入居者様が居るので、職員数を減らすわけにはいかない。 そのため、他のグループ内施設からの出向や潜在看護師(看護師免許を所持しているが、看護職を退しりぞいている看護師)を雇って、何とか継続するしかない。


 その為、いくつかのクリニックを休診にして対応したそうだ。 ……患者さんにとっては、本来、受けられる筈の医療サービスを受けられない事態におちいった事になる。


 俗に言う『医療崩壊』の状態である。


 今回送られて来た検体は、その『ヘルプ』の看護師さんや他の医療従事者から採取した物だった。


 ……サターンウイルスの恐怖が本格的に押し寄せて来たのだ……。

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