第2話 チーム

「ははははは」


 えっ!? 笑ってる!?


「……遥さんは、噂通りの優しいかたですね。 その気持ちは、いつまでも持ち続けて下さい」


「は……い……」……いや、今はそんなことを聞きたい訳じゃないんだけど……。 


「それと、ケンタ……墨台は元『DMAT』です。安心して下さい」


 ……! ディー……DMAT!


 『DMAT』……Disaster Medical Assistance Team……医師、看護師、コ・メディカルで構成される、大規模災害や多傷病者発生時に急行し、人命救助を第一の目的としたスペシャリスト……『災害派遣医療チーム』の略称だ。


 1995年1月17日戦後最悪の災害「阪神・淡路大震災」が発生し、死者・行方不明者6,425名 負傷者43,772名を記録した。


 後に公的機関により大規模な調査が行われ、その結果「避けられた災害死」が500名以上存在した可能性がある……との報告がなされた。 その為、医師が災害現場で医療を行う必要性が認識されるようになり、平成17年4月、厚生労働省により『DMAT』が結成されたのだ。


 墨台さんが、その一員だったとは……。


 彼の冷静さや慧眼は、そこに裏打ちされていたのか!


 ……だが、それとこれとは話が違う!  


『DMAT』だって個人では疲れもするし、体調不良にだってなるだろう。 私はここで引くわけにいかない。 墨台さんを、少しでも楽にしてあげたい!


「『DMAT』だったかも知れませんが、その前に墨台さんも普通の『人間』です! 今、PCR検査センターは、実質ふたりしか居ません。 私が出られない分、墨台さんに負担がかかっているんです! これ以上無理はさせたくありません!」


「……はるかさん、ありがとう。 しかし、俺が言ったのは、そういう意味じゃない」


「……?」


「ケンタは『DMAT』だったからこそ、あらゆる状況を冷静に分析出来る。 しかも瞬時に……だ。 あいつが『いける』と判断すれば確実に遂行可能だし『無理だ』と言えば、別の手を考えなければならない……そういう事だ」


 ……そうか、……か!


『DMAT』だったからこそ、墨台さんは優れた分析能力を有している!


 ず、災害時には、自分たちの命を最優先に行動するのが大前提だ。 私たちが感染対策を万全に行うのと同じだ。


 次に『トリアージ』……つまり『生命に優先順位をつける』のも、時には必要となる。 『全てを救う』のが原則ではあるが、現実には厳しい時がある。 その際には、非情な判断も下さなくてはならない。 『救える命』を確実に救う為に……。


 それらを可能にするのが、百戦錬磨を乗り越えた『経験』と『実力』だ。


 辰巻さんと墨台さんは、私が考える以上に『信頼』という固い絆で結ばれていたんだ。


「……部長……私……余計な事を言いました。 本当に申し訳御座いませんでした!」


 私の完敗です。 本当にすみません……。


「いや、俺は心底しんそこ安心した。 この世界で一番大切なのは『思いやり』だ。 貴女あなたがたがその気持ちを持ち続けている限り、俺たちの『チーム』は……何があっても……負けない!」


 私はこの時、初めて辰巻さんが上長で良かった……と心から思った。

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