第13章 パンデミック
第1話 激務
そんな訳で『プール法』を用いたPCR検査により、ほぼ陰性が確実な検体なら、約5分の1の時間で結果が出る。 200検体なら40セット分……当センターの一回処理数が30セットなので、2クールで終わるんだ。
……但し『プール法』には、弱点がある。 それは、5名分を混ぜて検査する為、陽性判定が出た場合、その5名全てを検査し直さなければならない……それでも、全数を検査するよりは
しかし今回は、陽性になるリスクが高い方々は『抗原検査』という簡易キットで
案の定、昨日の施設は全員陰性だった。
なお、陽性判定が出た場合は『確定』なのだが、陰性だった場合は『100%陰性』と言い切る事は出来ない。 『存在する』という証明は簡単だが、『存在しない』事を証明する事は、現実的に不可能だ。 その為、陰性結果を報告する際には必ず『ウイルスの存在を完全に否定するものではありません』……との注釈が必要である。
その旨も遠川さんに伝え、まずは一段落だ。 昼食の時間になったので、私は横の休憩室で、朝買ったコンビニのお弁当を食べ始めた。
……休憩室で黙々と食事していると、墨台さんを思い出し、気懸かりになった。
せめて、お昼ご飯くらいは……食べられてるかな……?
『ブーッ、ブーッ』
その時、出し抜けにスマホが振動した。 墨台さんからだ。
「お疲れ様です! 大丈夫ですか?」
「ごめん! この
……! そんな……
「一人で200人採取なんて……無理です! 誰かにお手伝いして貰えないんですか?」
「俺は大丈夫♪ 辰巻さんの電話が掛かるから! 切るよ!」『プツッ』
……墨台さん……無茶ですよ……。
『ブーッ、ブーッ』
辰巻部長からだ。
「遥さん、墨台から連絡があっただろうけど、また外部施設でクラスターだ。 ……これから看護師に、今さっき採取したグループ内の検体を持って行かせるから、その人に検体容器60名分を渡して欲しい!」
「はい、準備します。 ……それより、墨台さんが外部施設200名分を一人で採取に行ったと聴いたんですが」
「……そうだ。 ……どうしても人材が手配出来なかった」
「すみません……私が運転免許を持って無いばかりに……」
「それは気にしなくて良いよ。 遥さんには検査センターに居て貰わないと困る」
「ただ、墨台さんが……」
「そうだな。 ……ケンタには頑張って貰っている……でも、遥さんが、あいつを気遣う必要は無い。 この戦いは、恐らく長引く。 今は自分の体調をしっかり管理して下さい」
……墨台さんは奥様が臨月だし、多分、一番疲れている時期の筈だ。 そんな時に、この連日の激務はかなり辛いだろう。 辰巻さんは何とも思わないのかな?
私は少し腹が立って辰巻さんに言った。
「……墨台さんは私より、かなり年上だし、元気そうに見えるからこそ、無理していないか心配なんです……本当に大丈夫なんですか?」
……さあ、どう答える? トルネード辰巻!
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