第2話 検体採取 

 施設の正面玄関に立つが、自動ドアは開かない。 


 ……施設の入口は、基本的に『二重扉』になっているのがマストだが、今回は扉と扉の間……『風防室』も『イエローゾーン』としての解釈が必要で、何も知らないかたが入って来てしまうと問題になりかねないので、今は施錠してある。


 玄関横の呼び鈴を押すと、PPEに身を包んだかたが開錠してくれた。


 ……そそくさと施設内に入ると、先程の遠川とおがわさんが、やはりPPEを着てやって来た。


「有難う御座います。 ……では、こちらに……」 ……と、管理棟の会議室に案内された。


 中では40~50名の、施設の職員の方が並んで待っていた。 ……PPEを着用しておられる職員に協力して戴き、検体採取用の綿棒と専用スピッツを配る。


 皆さんの手に渡ったところで、墨台さんが中央に立ち、準備しておいた『検体のり方』を提示しながら、採取方法を説明した。


 厚生労働省が推奨しているサターンウィルスの検体採取方法は『唾液』『鼻腔ぬぐい液』『舌由来蛋白質ぬぐい液』が代表的だ


 しかし『唾液』は必要量の採取に時間がかかり、また、粘調度が高い場合は、検査前にサラサラな状態にする必要がある為、特殊な薬剤を混合したりする『前処理』が必要となる。 


 また『鼻腔ぬぐい液』は、採取の為、鼻に綿棒を入れる際に、くしゃみを誘発し、ウィルスを撒き散らしてしまう危険がある。


 ……その点『舌由来蛋白質ぬぐい液』は、上記の問題が起きにくい上、サターンウィルスの検出率が高い……との研究発表もあり、私たちはこの方法を採用している。 綿棒で舌の上をこそぎ取るようにする方法だ。


「はい! では、スワブを袋から出して……咥えて下さい! そのまま……舌苔を削ぎ取るようなつもりで少し強めに……左右5回ずつ上下しまーす。 いち! にい! ……」


 ……おー! さすが墨台さんは慣れている! 声も大きいし、何と言っても号令のかけ方が、実に堂に入っている。 素晴らしい!


 ……職員の方もそれに従って順調進み、20分もしないうちに50人近い職員の検体採取が終了した。


 ……採取した検体を清潔な袋に移しながら、墨台さんに小声で……


「……墨台さんは、やっぱりさすがですね~! 職員さんがたとは言え、こんな順調に進むと思わなかったですよ!」……と言うと……


「……いやあ~……こんなの初めてだから緊張したよぉ~!」……と言って、汗を拭くジェスチャーをした。。


 ええぇぇ~~? 初めてぇ~!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る