第12章 レッドゾーン
第1話 家族……
うわあ……うちらの上司ってヤバい人なのでは!?
……確かに、かれこれ2か月くらい経つのに、一度の挨拶も無いとは……『謎の組織のボス』じゃあるまいし……
「……なんか……すごい不安になってきたんですが……」
……ええ~! じゃあ、墨台さんがいなかったら、本当にヤバいってことぉ~!?
「……はははっ 冗談冗談! 芯はしっかりした人だし、やり手だし……特に求心力はズバ抜けた人だよ。 ……そうでなきゃ、天下の『町野グループ』が、新規事業を任せないよ!」
……で す よ ね ぇ ~ !
……
空気が綺麗で、近くには建物も少ない。
PPEや検査器具を入れたコンテナをワゴン車から
「お世話になります……施設長の
……『クラスター』が発生してしまうと、当然、ご入居者様のご家族にも連絡しなくてはならないし、責任問題も発生するだろう。 ……お疲れなのは当然だ。
「こちらは臨床検査技師の
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……余談だが、私が名刺をお渡ししたのは、今回が初めてだ。 ……私はぺーぺーだし、町野中央病院の検査室でお名刺を持っているのは
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墨台さんが「早速準備したいのですが……『ゾーニング』は?」と遠川さんに聴いた。
……『ゾーニング』とは、文字通り『
当然だが、感染症のクラスターが発生した施設に入って、検者(検査担当者)である私たちが感染してしまったら身も蓋も無い。 安全に着替えや準備をする必要がある。
その為、建物内を『グリーンゾーン』『イエローゾーン』『レッドゾーン』の3つの区域に分け、それぞれに合った体制をとるのだ。
『グリーンゾーン』は『通常業務区域』で、ここはサターンウィルスが存在しない事が大前提となる。 マスクの着用や換気の必要はあるが、職員にとっては『オアシス』と言える区域だ。 お食事も出来る♡ ←食いしんぼ
『イエローゾーン』はPPE(防護服)を着脱する為の『準危険区域』で、サターンウイルスが存在するとの前提で、安全を確保する必要がある場所だ。 ……この区域から『グリーンゾーン』に移動する際には、PPE脱衣と、消毒が必要となる。
※最近では、後述する『レッドゾーン』から出る際に、完全にウイルスを持ち出す危険が無い場合に限り、『イエローゾーン』を設定しない場合が増えています。
『レッドゾーン』! 感染の危険が最も高い区域で、立ち入る際にはPPEを正しく着用し、感染者から検体を採取する場合や、看護師さんやヘルパーさんが直接感染者に接触する場合は『N95マスク』と『アイプロテクト』を装着する必要がある。
遠川さんが「はい……。 私たちが居る『管理棟』は安全と思われますが……現時点では不確定です」
「承知しました。 では、私たちは、駐車場で準備します」
手早くコンテナからPPEを取り出し、墨台さんと互いに指差し確認しながら『感染対策マニュアル』通りに着用し、検体採取セット一式を使い捨てバッグに入れた。
……!
この時突然……家族の顔が脳裏に浮かんだ。
……鼻歌を歌いながらキッチンで楽しそうにお料理をするお母さん……。
……「みんな〜! おみやげだぞ~」と、笑顔で大きなお菓子の包みを抱えて帰って来るお父さん……。
……私が残した『たまごサンド』の耳にマヨネーズをたっぷりかけ、それはそれは美味しそうに食べる兄貴……。
(……今思うと、全て食べ物に関する回想だった ←食いしんぼ)
もし、私がサターンウィルスに感染して……皆にうつしてしまったら……どうしよう……。
……私は急に怖くなり、動きが止まってしまった…。
そんな私に気付いた墨台さんが、理由を訊ねてくれた。
「ここだけの話にして欲しいんですが……」と、不安な気持ちを打ち明けると……
墨台さんは、いつもより力強く、親指を私が寄り目になる程の至近距離で突き立ててくれた。 ……その手はマニュアル通り、手袋を二重に装着してる。
「だ~いじょぶ! 幼い子供が5人……妊婦が1人、家で帰りを待ってくれてる俺も一緒に行くんだから!」
「……それなら尚更です! ……怖くないんですか?」
「怖く無い!」
……アイプロテクトの奥の墨台さんの目は……いつもと違って、笑顔では無かった。
そして私の目を見て、低い声で言った。
「……って言えば……正直、嘘になる。 ……でも本当に怖いのは『怖さ』を失くした時だ」
……!
「人は『怖さ』を持ち続けている限り、危険に敏感で、慎重に行動する事が出来る。 ……だから『怖い』と正直に言えた遥さんも、俺も『大丈夫』だ! さぁ! ご一緒に!」
……アイプロテクトの為に拭けない、熱い涙を頬に感じながら親指を立て……
「イイね!」 ……と、墨台さんと声を合わせた!
それはまるで、試合前の円陣のように、私に……勇気を与えてくれた!
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