第2話 日本刀

 会員カードから住所を調べると、そのかたのご自宅は、結構ご立派なマンションらしかった。


 電話をすると、若い女性が出た。 会員カードの名前と違うのが気になったが、話は通じた。


 DVDはそこにあるらしく、取りに行けば、返却してくれるそうだ。


 万が一の為に、ポケットに『痴漢撃退スプレー』を忍ばせ、マンションに向かった。



 そのマンションは、オートロックだった。『ガサ入れ用?』とか思ったが、そんな事は口が裂けてもけない。


 …部屋のインターホンを押すと男性の声だった。


 『おう、入れ』


 …もう、帰りたかったけど今更、あとへは引けない…。



 部屋の前に到着した。 深呼吸して、インターホンを押す。


 『どーぞ』


 …良かった…。 電話の女の人だ。


 ドアが開き、茶髪のお姉さんが出てきた。タンクトップの素肌には、七福神?の女性の神様が顔を覗かせている。 …本物は初めて見た! …意外にくすんで見えた。


 広間に通され、待つように指示された。


 お茶を出してくれたが、怖くて口をつけられない。 しかし、『俺の茶が飲めねぇのか!』とか言われると困るので口に含むと、めちゃくちゃ美味しかった! あれ程美味しいお茶は、あのあと口にしていない。


 部屋には、5円玉で出来た五重の塔と、鹿の角に置かれた、日本刀が二振り飾ってあった。 何か気に食わない事があったら、多分、一刀両断されて、東京湾に沈められるのだろう。 遺書をしたためなかった事を後悔した。


 程なくして、男性が現れ「遅くなってゴメンな! 宜しく」…と言いながら、『くまのプーさん』と『ポケモン』のDVDを返してくれた。


 帰りがけに、女性がビール券をくれた。 


 無事、店に戻って報告したら、ビール券はそのまま私にくれた。


 その日の夜は、父と兄貴はビール、母と私はウーロン茶で、生還を喜び合ったのは、言うまでもない。



 …そんな事を思い出していると、再び外来からの内線で、心電図エーカーゲーの依頼が来た。 内科の大山先生が、どうしてもたい…と言っているらしい…。 



『そんなにご覧になりたかったら、ご自分でおり下さい』 …とも言えず、重い足取りで、外来処置室に向かった。


 ノックすると、長谷ながたにさんが、無言で、片手で『ゴメン』のポーズをしてくれた。


 「し…つれい…します…」と、恐る恐る患者さんが寝ているベッドのカーテンを開ける…。


 『ギロッ』…と音がしたかと思うくらいの勢いで、『あちらの』かたが私を睨みつけた!


 目が合ったその時…


 双方、同時に声をあげた


 「あ〜!」

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