第9章 心室頻拍《ショートラン》

第1話 アルバイト

 「検査、はるかです」


 内線に出ると、外来から心電図エーカーゲーの依頼だった


 救急車アンビで搬送された患者さんの場合、検査室に移動させる余裕が無い為、ポータブルの心電計を外来処置室に運んで検査する。


 待ち合いまで行ったところで、外来からドスの効いた怒号が聴こえた。


 「てめぇ! 触んじゃねぇ!」


 うわあ〜…一番困るパターンだ…。  


 心電図エーカーゲーも、脳波EEGも、ちからが入ると、筋電図エーエムゲーが邪魔して正確な記録が出来ない。 暴れたり動いたりする患者さんの記録依頼は、大抵、徒労に終わる。


 恐る恐る、外来処置室を覗くと、外来の長谷ながたに看護師が、手で✕を作って、合図してくれた。


 いそいそと検査室に戻る。


 …私の、あまりにも早い帰室に、みやこ先輩が「はるかも、もう名人の域ねー」 …と本気なのか、ふざけてるのかわからない感嘆の声をあげた。


 残念ながら暴れる患者さんの心電図は、心電図の発明者アイントホーフェン先生でも、かのブラックジャック先生でも録れません! いや、ブラックジャック先生なら録れちゃうかな?


 色々とやることが速い深田先輩は、情報の入手も速い。 早速、先程の患者さんの情報を入手して戻って来た。


 「さっきの救急アンビ患者PT、コレだって…」と、自分の頬を、人差し指で斜めになぞった。


 あ、『あちらの』かただったのか…。



 …『あちらの』かたには、実は苦い思い出がある。


 私が専門学校の時だった。


 その頃私は、ビデオ屋さんでアルバイトをしていた。


 当然、色々なお客さんが来たが、その中に、『あちらの』かたもいた。 当然のように、お金等は、お支払いにならない。


 店長も、相手が相手だけに、お金は諦めていたが、DVDは返却して貰わないと困る


 …との事で、何故か、若くて可愛い(自称)私が、引き取りに行く事になってしまった…。

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