第11話 躍動

 検査室に戻ると、深田先輩とみやこ先輩が、昨日、技師長が買ってくれた、かき氷アイスと格闘していた。 …一度溶けてしまったアイスを固めると、カチコチに凍ってしまう。 その上、マイナス30度で急速冷凍した為、完全な1つの氷塊になってしまっている。


 「昨日は大変だったみたいね。 ごめんね、先に帰っちゃって…。」


 深田先輩は、本当に申し訳無さそうな声とは対照的に、アイスを砕こうと、手首のスナップを利かせて、高速でスプーンを叩きつけている。 ふと都先輩に目をやると、やはり、申し訳無さそうな表情でこちらを見ながら、手は、包丁をぐようにスプーンでアイスを高速で削っていた。


 その二人の姿を見ていたら、妙に『生き抜く力強さ』を見た気がして、何故か嬉し涙が出てきた。


 深田先輩が、氷を割る手を止め「ど〜した、はるか〜」と言って肩を抱いてくれた。 みやこ先輩は頭をポンポンしてくれた。


 「違うんです! 何か二人を見てたら可笑しくて可笑しくて!」


 「なにぃ! こいつ〜」 深田先輩が、私の両方のほっぺを引っ張った。 益々笑いが止まらない!


 笑いながら、心の中で思った。


 「私、この人たちと一緒だから、働けてるのかも!」


 …成り行きで就職した検査室だけど、ここで働けるのが幸せなんだ。 …と思えた。


 もう、始業の時間だ。


 …結局二人はアイスを食べられず、冷蔵庫で溶かして、昼休みに飲んでいたのは、言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る