第10話 尊厳

 「…中央材料室ちゅうざいでムンテラって珍しくないですか?」…と村田師長にいてみた。


 「森さん、元々、高血圧HTがあったから、血管がもろくて、もう少し血圧が安定するまで、動かせないのよ。 今日は、丁度オペ予定も無いし、家族に現況を見てもらって、場合によっては、『延命治療』の可否も問いたい…みたいよ」



 輸血伝票を村田師長に渡し、少し考えたいので、遠回りをしながら地下に向かった。



 今朝、父と笑いながら話をした事…そして、昨日の森さんのご家族の姿…が頭の中でオーバーラップした。


 『自分自身が延命治療を望むか』と言う問いに『望む』と答えた人は、5%に満たないという。 その反面、家族が終末期を迎えた時、『延命治療を望まない』と言える人が、果たしているだろうか。


 私は、自分自身、延命を望まない。家族にかかる精神的・経済的負担がわかるからだ。 しかし、家族がそうなった時は、先生に泣きついて、延命治療を懇願するだろう…。


 そう考えたら、つい自嘲してしまった…。


 人間って、本当に勝手だ。理屈でかっていても、どうしても受け容れられない事がある。 しかし、それは本当に『愛』している人が望んでいる事なのだろうか。


 …今現在、そのつらい決断を迫られている人が、すぐそこにいる。 …そう思うだけで、胸が張り裂けそうになった…。



 この命題は、誰もが避けて通れない道だ。 …そして、様々な葛藤から、大勢の人が、身を切られる以上のつらさを知るだろう。


 だからこそ、私は思う…。 


 今、健康な人とその家族、…また、病んでいる人とその家族 …更に、そのまわりの人たちが、良く話し合い、互いを理解し、尊重し合って、決断の時が来たら、胸を張って『愛する人の意思』を代弁できる関係を築いていきたい


 …と…。

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