第9話 ムンテラ

 翌日は、前日の嵐が嘘のように、雲ひとつ無い晴天だった。 しかし、昨日の嵐の影響が尾を引いているのか、朝からだるような暑さだ。


 …結局、昨夜は、父は帰宅出来ずに、温泉施設で夜を明かしたそうだ。 スマホのビデオ通話で話したが、いつもよりテカテカして見え、思わず笑ってしまった。 ただ、着替きがえが無いから、気持ち悪い…と愚痴をこぼしていた。 「今晩は帰れるだろうから、それまでの我慢よ〜!」…と言って、電話を切った。



 自転車で病院に向かう。 …昨日の激しすぎた雷雨で洗い流されたのか、街中が朝日で輝いていた。


 検査室では、寝ぼけ顔の技師長が、朝の準備をしてくれていた。 慌てて私も手伝った。


 手術は、真夜中に終了し、15時間に渡る、大手術だったそうだ。


 私が帰宅した後にも、更に10単位の輸血オーダーがあり、感染性廃棄物用容器バイオハザードボックスは、検査に使用した試験管とディスポピペットだらけだ。



 「やっぱり、昭和一桁ひとけた産まれは基礎体力があるんだな。 …本当なら、こんな長時間の手術オペえ切れないらしいよ…」 …と技師長が言った。 


 昭和初期…戦争と、その後の食料難を生き延びた経験をお持ちなはずだ。


 そう言えば、埼玉にいる祖父が、戦後は川で山程やまほど小魚を釣って、その場で煮て食べてたから、未だに歯が丈夫だ…って自慢してたっけ。



 技師長には、仮眠室で休んで貰い、森さんの輸血伝票を、まとめて手術オペ室に持って行った。


 オペ室前にいた森さんのご家族は、見当たらなかった。 手術が済んで帰ったのかな?



 中央材料室ちゅうざいをノックすると、村田師長が顔を出し、そのまま出てきた。


 今、中央材料室ちゅうざい内で、森さんのご家族に執刀医の三井先生が治療方針説明ムンテラしているそうだ…。

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