第8章 天命

第1話 雷雨注意報

 最近の異常気象は、『こわい』を通り越して『ひどい』になっている。 ついこのあいだも、近くに、『ひょう』が降って、自動車のフロントガラスが割れた…なんて報道されていた。


 私は、自宅が近いから、歩いてでも通えるが、 先輩がたは電車が停まると帰れなくなってしまう。


 今日も、関東地方は雷雨注意報が出ている。 …こんな日は患者さんも少ないし、先輩二人は有給も余っているので、午後休ごごきゅうで帰って貰った。

 

 午後は、本当に暇で、技師長は奥で鼻いびきをかいている。 


 私は、すっかり手持ち無沙汰になったので、例の『豆本』の続編を書き始めた。 検査の大切さを啓蒙けいもうする為に始めた、この豆本は、嬉しいことに想像以上に好評で、続編として、『肝臓』、『胃』、『婦人科』を造る事になったのだ。


 外来看護師、長谷ながたにさんが、検査伝票をまとめて取りに来た。 伝票の管理も、私たちの仕事だ。


 結構な量があるので、私も運ぶ手伝いをした。


 うちの検査室は地下にあるので、普段は健康の為(…という名目で、実はダイエットの為)に階段を使うが、今日のように荷物が多い時は、エレベーターを使う。


 長谷さんと一階…外来階で降りたが、ロビーは誰もいない。 ガラスのドアから見える外の景色は灰色で、かなり土砂降りだ。ガラスには大量の雨粒が付いていた。


 ロビーのテレビは、大雨情報を字幕入りで流している。 あちこちに赤い『警報』が目立つ。


 長谷さんがテレビの前で立ち止まり、「あら、あたし帰れるかしら…?」と言った。

使っている路線が運休になったらしい。


 「いざとなったら病院に泊まるしかないですね」…と私が言うと、長谷さんは、「そうね。 この前の震災の時も3日くらい泊まったのよ」と答えた。


 検査室にもどり、豆本の続きを作ろうとした時、内線電話が鳴った。


 …手術オペ室からだ。

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