第2話 脳アミロイドアンギオパチー脳症

 手術室の村田師長だ。


 「脳外科のうげ手術オペ患者かんさん、大出血してるの! 」


 「…了解です。 輸血、サイレンで依頼しますね!」


 …血液センターから輸血用の血液を届けて貰う場合、通常は決められた時間までに連絡を入れ、通常便びんで輸送して貰うのだが、緊急性がある場合のみ、時間に関係無く、『臨時便』として、赤色灯とサイレンで至急輸送して貰う事ができる。


 「それで。 Aプラス 20たん!」


 いつもは穏やかな物腰の村田師長が、ややヒステリックにそう言って、電話を切った。 


 ただならぬ様子に、技師長も動き始めた。


 保冷庫の横にマグネットバーで留めてある『手術予定表』を見て


 「はるか! 21048 モリ マサキ」


 私は「21048!」と言いながら電子でんカルテカルのキーボードを叩いた。


 『21048 モリ マサキ 84Y M』


 「出ました」


 技師長が私のうしろからモニターを覗き込む。


 『主病名:脳アミロイドアンギオパチー脳症』 『出血傾向改善せず、開頭術による外科的処置』


 「CAA…か ヤバいな」と技師長が唸るように言った。


 CerebralアミロイドAmyloldアンギオパチー Angiopathyは高齢者に多い、脳出血を引き起こす病気だ。 血腫や大量出血した場合は、外科的な手術で止血するのだが、出血が同時多発的なので、非常に治療が難しい。



 原則として、輸血依頼は伝票を見ながら血液センターに依頼するのだが、緊急性を考慮して、確認前に電話で要請した。


 技師長が「…今晩がヤマかも知れないから、俺、泊まってくわ」と言った。


 …現時点で20単位…約2.8リットルの輸血依頼が来ている。 かなり出血しているんだろう…。


 地下に居ても聴こえる激しい雨音が、波乱の幕開けを予感させた…。

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