第6話 尾行

 結構、急いで走って、ようやく繁華街のネオンが見えて来た。 兄貴に電話するが、出ない! 何回かけても出てくれない!


 兄貴、もしかしたら、どこかイヤらしい所に遊びに行っちゃたんじゃないの?


 あ〜、こんなことなら、ボスじゃなくて、深田先輩でも合わせておけば良かった…と、不謹慎な事を考えていたら、兄貴から電話がかかった。


 「心配してたよ! どうしたの?」


 「ごめん、車で移動してて!」


 …あの二人は、車で、何処どこかに行ったの? それとも…兄貴が …ゆ! 誘拐!?


 「バカ! 違うよ!」


 …兄貴の話では、津田さんたちは、歓楽街を素通りし、すこしさびれた停留所から、マイクロバスに乗り、『クサノフーヅ』…という会社に移動したらしい。


 お弁当の会社だ。


 …これで判った。 津田さんたちは、お弁当屋さんの夜のアルバイトをしていたんだ。


 …彼女たちは、田舎から東京に出て来て、『看護師になる』という夢を必死に追いかけている。 …しかし、病院から支給される、お給料だけでは、生活が苦しいこともあるらしい。 


 聞いた話では、以前、本当に如何いかがわしい店でアルバイトした挙げ句、好きになってしまった男性に、働いたお金を全て吸い取られ、病院を退職し、そのまま行方すら判らなくなってしまった実習生もいた…らしい。 …その子も、秋田出身…だったそうだ…。


 昼間は病院で仕事、夜は看護学校で勉強、その後アルバイト…こんな過酷な生活をしているなんて…。


 病院の規則で、アルバイト禁止なのは知っている。 


 生活がつらくても、病院の規則を守って、少ない収入でやりくりしている実習生がいるのも事実だ。 もし、どうしてもお金が足りないなら、やはり、それは病院に相談するべきなんじゃない…かナ? …と、社畜ならぬ院畜になっている私は思ってしまう…。


 まあ、ここからは、私が出しゃばる問題ではない。 私にできるのは、病院にアルバイトしている事がバレないように祈る事くらいだ。 


 ボスに詳細を送り、私達も帰途についた。 


 そうそう、ボスからお礼のLINEに加え、兄貴への愛の告白文が添付されていた!


 二人の愛の行方ゆくえは…皆様のご想像にお任せ致します


 はっ! もし、この恋が実った暁には、ボスが私の『お義姉ねえさん』になるって事!?


 ふくざつ…。

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