第4話 噂

 最近の異常気象で、荒れに荒れた梅雨が終わり、本格的な夏がやってきた。


 私は夏が好きだ! ……それは、同世代の女性が良く言う『恋の季節』とか『開放的』とか、そんな情熱的な理由では無い。 『寒く無い』からだ。


 動物が冬眠する季節に、何故、ヒトは働かなくてはならないのか? どこかに責任者がいるものなら、小一時間、問い詰めてみたい。


 さて、その頃になると、ひよっこ実習生たちも、それなりにたくましくなり、それぞれの部署で貴重な人材になりつつある。


 そんなある日の帰り道、『ボス』ことむろさんに声をかけられた。 ついに私も吊るされるのか? ……と、少々ビビっていると、そんな話では無く、いたって真面目な相談だった。


 病院から少し離れたファミレスで話を聞くことにした。


 ボスは、実習生仲間の何人かが、夜の歓楽街に入り浸っているらしい……と、私に告げた。


 少し前までは、看護学校に皆で登下校していたが、実技講習の関係もあり、下校時間がズレ始め、その頃からあまり良くない噂を耳にするようになったらしいのだ。


『それを私に言われても、私は何も出来ない』と言ったが、何せ、ボスを含めて実習生はまだ未成年。 危ない所へは行けない上に、心を開いて話が出来るのは私だけ……というのだ。


 もし、実習生仲間が、本当に如何いかがわしい所に入り浸っているようなら、私から注意して欲しい……と言う。


「注意するなら、ボスが鉄拳を喰らわせるのが一番効果的じゃない?」と言うと、「せっかく仲間になったのだから、喧嘩したくない……」と、モジモジしながら告げた。 


 外見は国技館近くで良くお見かけする『スモウ☆レスラー』そのものだが、中身は少女並みにナイーブみたいだ。


 ちなみに過去に彼女が犯した『糖尿病DM患者つるし上げ事件』も、まったくのデタラメで、患者さんに「下着のタグがチクチクするから取って欲しい」と言われて、ちぎってあげただけ……らしい……。 『冤罪』って、こうして起きるのね…。


 「判った……。 ただ、私一人では心細いから、兄貴に協力を頼んでも良い?」と聴くと、それは承知してくれた。


 こうして、私の『名(迷)探偵物語』が幕を開けることになった!

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