第2話 道化師

 私が会場に着いた時は、今まさに、実習生が並んで入場するところだった。


 …このタイミングで裏口から会場に入ると、かえって注目を浴びる危険性がある。 …かと言って、今、入らないと実習生の個別紹介が始まってしまうので、ますますはいづらくなるだろう。


 ここは、腹をくくって、このまま、しれっ…と入場しちゃおう!


 爽やかなBGMが流れ出し、人事課長が実習生を手招きし、行進が始まった。


 私は『自分は、ピッカピッカの新入生』と自己暗示をかけ、実習生と足並みを揃えた。 …行ける、これなら行ける! 


 会場の、温かい歓迎の拍手に包まれ、私たちは入場した。 私も、『初心に返って、新鮮な気持ちで勤務しよう』と、決意を新たにあゆみを進めた。


 …会場がひとつになり、感動に包まれていた


 …筈が…。


 突如、大爆笑の渦に包まれた! なに? 何が起きたの??


 爆笑の原因は、すぐに判明した。


 …私だった。


 私がうしろから、気配を消して追従していた事に気が付いた実習生も、お腹をかかえて爆笑していた。


 技師長が前に進み出て、私の手を引いて席に連れて行ってくれた。 その間も、笑いは収まらない!


 わあ〜! は、恥ずかしい〜!! …恥をかかない為にやった行動が、とんでもない事に〜!


 恥ずかしさで、ちっちゃくなっている私に、みやこ先輩が、『さすが、はるかすべらないねー』…とマイペースにつぶやいた。


 …この出来事は、『大爆笑歓迎会』として、いまだに病院の語り草となっている…。

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