第6章 stage Ⅳ

第1話 読影医

※ この物語はフィクションであり、実在の人物、団体などとは関係ありません


「トノマイチさ〜ん、トノマイチ コフミさ〜ん」


 妙齢の女性が立ち上がった。


 一緒に超音波エコー検査室に向う。


 歩きながら……「『殿舞池トノマイチ』さん……ですよね? 読みは間違い無いですか?」


「はい、珍しい名前でしょ? 『デンブイケ』とか『トノブチ』とか読まれるんですよ〜」


「それだと、呼ばれても気付かないかも知れませんね」 ……と、患者さんと笑い合った。


 病院、特に検査室は『名前』を多く扱う部署だ。 検査の種類によっては、お一人ひとりで十数本採血する場合もあり、カルテ番号や名前を間違えたりすると、訂正に手間がかかる事もある。 その為、患者名は、カタカナを使って記載する。 今回も、伝票がカタカナだったので、スムーズに呼び出せた。


 超音波エコー検査室に入ると、普段は居ないドクターが座っている。 通常、エコー検査は、私たち臨床検査技師がおこなうが、週に何回か『読影医』の先生が来院する。


 読影医……『放射線科医』とも呼ばれる、画像検査の診断のエキスパートだ。 


 臨床検査技師は、エコー検査は可能だが、保健婦助産婦看護婦法で、診断はおこなえない規則になっている。


 その為、医師の中でも特に画像検査…エコーや、CT、MRI等の診断技術を持つ『読影医』の必要性が出てくるのだ。


 この患者さんは、乳房マンマの検査だ。 上半身のみ脱衣してもらい、タオルをかける。 準備が出来たら、読影医に直接検査して貰う。



 「先生、お願いします。」


 「はいはいはい〜っ、では、検査しますよ〜。 押して痛かったら言って下さいね〜」と、ゼリーを塗りながら、探触子プローブを検査部位に当てる。 軽い口調で患者さんの体位を換えつつ、検査を進めて行く。 私はエコーの初心者なので、見惚みとれながら、結果を入れる封筒の記名や、次のかたの下準備などをやっていた。

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