第4話 人道的見地

 検査室で一人になって、ちょっと考えた。


 ドクターは、検査技師わたしたち放射線技師レントゲンが提出した検査の結果を見て、回復に向けての計画を立て、それに基づいて治療を始める。


 しかしそれは、あくまでも患者さんが協力してくれる事が前提だ。患者や家族の協力を得られないなら、治療が始められない。だから、必死で説得するし、それでもかたくなに拒否されたら、治療を断念するしかない。


 ただ、視点を変えて、さっきの木村さんの立場で見てみると、輸血によって命が助かったところで、自分や家族の体内に、悪い血が入っている…という考えがある以上、本人も、家族も、生きるより遥かに辛い人生を送る事になるかも知れない……。


 どっちが患者の為なのか? そもそも人道的見地からすると、本当の正解はどっちなんだろう……何だか、わかんなくなって来た〜。


 ……と思った時、染谷師長が入って来た。


「ありがとう。 お疲れ様ね。 木村さん、無事、転院したよ」


 私は「良かったです。 師長もお疲れ様でした。」と言いながら、ペコリと頭を下げた。


 染谷師長は、本当に疲れた〜って顔で苦笑いしてうなずいた。そして、ポケットからチョコパイを出し、「これ食べて。 溶けてないと良いけど」


 チョコパイは大好物だ。ありがたくご馳走になります!


「あ、師長……」


「ん?」

 

「もし、師長が木村さんと同じ立場だったら、どっちを選びますか?


 「あたしは、ぶん殴ってでも輸血させる! ステった死んだら終わりだもん。そんな時の為に、空手、習ってるんよ!」と、チョップした。


 うそ〜!


 「嘘よ。 ……ただ、今の答えは、あたしが看護師だから言える事。実際に木村さんと同じ考え、同じ立場なら、どうしたか……それは、全く見当がつかないわ。 そう言うはるかさんは、どう?」


 「私も、ぶん殴ってでも輸血させます! だって、血液が勿体ないから!」と、ちょっと強がって言ってみた。


 染谷師長は、大笑いしながら「検査さんらしい意見だね! 『いっそ清々しい』わ! 今度、あのケチンボ院長に伝えといてあげるね!」


 いや、それは困ります……。



 ……時計を見ると、間もなくAM4時……。 一度帰って、シャワーでもしたい。


 「では、はるか帰ります」


 「それが良いね。 あたしもこれからちょっとだけ仮眠するわ」


 一度検査室を出た染谷師長が、回れ右して、「そうそう! 言い忘れてた」


 ……なんでしょ??


 「ブラ、した方が良いわよ! 結構……ポチが……ね!」


 わ、私は真っ赤になって胸を隠した。


 「あははは! 若いって健康的で良いわ。 元気貰ったよ。ありがとさん」と言って、手を降った。



 私は、白み始めた空の下、人目を忍んで家路を急いだ。


 白衣ケーシーを3枚重ねに着て、更に私服を重ね着して帰ったのは言うまでもない。

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