第10話
酒場の適当な空いている席について、軽くつまめる料理を、と頼んで手元に目を落とす。
冊子には色々と細かく書かれてあったので要約する。
冒険者ギルドとは、はっきり言うと依頼人と冒険者の仲介所だ。依頼人が街に出たりしてわざわざ冒険者を探すより、仲介所を作ってそこに一纏めにしたほうが効率がいいということで作られた。
別の国同士でもギルドは協力関係にあるので、冒険者ギルドのカードは入国の身分証代わりにもなる。色んな国に支店がある大商店みたいな感じだ。
登録した場所と別の国で冒険者が犯罪を犯した場合、その登録した国にも責任が追求されるので、大抵の国は冒険者が犯罪を犯した場合、厳罰を与えることになっている。場合によっては窃盗ですら死刑になる可能性があるそうだ。
こわっ。
ランク制度もあり、受付嬢に言われたように10級から始まり最上位は特級となる。
魔物や依頼内容に応じて依頼にランクが設定され、基本的には自分と同ランクかそれより1つ下の依頼しか受けることは出来ない。
魔物そのものにもランクが付けられており、3級に指定された魔物なら、3級のパーティで挑んでようやく勝てる程度の脅威となる。
ランクが上がる条件は2つ。自分と同ランクの依頼を決められた数こなすこと。または他の自身よりランクが高い人間から推薦され、ギルド職員の監視下で特定の依頼をこなすこと。これだけだ。
そしてパーティ制度について。
人数は最大6人、ランク差は上下1まで認められる。3級なら2と4の人物とは組める、ということになる。ただし、受注できる依頼はパーティで一番下のランクの者に合わせなければいけない。
つまり3級の人間が4級の人間とパーティを組むメリットはあまり無いということだ。
ギエロが何級なのかは分からないが、俺とパーティを組めないと言ったのはそういう事だ。
ちょうど真横の席だったので聞いてみることにした。
「ギエロさん」
「なんだ?」
「何級ですか?」
「おれぁ4級になったばっかだ。この街じゃあ2番目に強いパーティって言われてる」
「なるほど、ありがとうございます」
「あんまりランクを言いたがらねえ奴なんかもいるから、気いつけろよ」
「ええ、どうも」
コイツ見た目や態度と性格が真逆じゃないか?
ギエロが4級に成り立てか。だったら俺は3級か4級上位ぐらいが妥当なとこだろう。師匠は多分1級か特級だ。
しかしこいつらでも2番手か。街一番のやつはどのくらい強いんだ?
おかしいな、こういうのって特例でいきなり1級だとか、実力の差を見せつける展開な気がするんだが。身の程を知れって言われてる気分だ。
最後に依頼と報酬について。
依頼主は依頼書と報酬をギルドに渡す。その報酬のうち2割がギルド、8割が冒険者の取り分となる。細かい金額は依頼書に明記されることになっている。
依頼書は依頼主が持ってきたものに加えて口頭で細かい事情を聴取し、最終的にギルドがそれらの情報を纏め、依頼のランクを設定し酒場の掲示板に張り出される。ランクは一番大きく書かれ、依頼の傾向を表示するマークもあるので文字が読めなくてもある程度は分かるようになっているそうだ。
依頼書をカウンターに持っていけば受注となり、ギルドカードに受注状況等が記録される。
討伐系や採取系であればギルドの裏手に各魔物の特定部位や指定の採取物を納品し報酬を受け取る。護衛や街中での労働などの依頼であれば、依頼主がギルドから依頼完了証というのを渡されているため、それを依頼主から受け取ってギルドに提出すればいい。
依頼完了証を奪い取ったりしようものなら、極刑が確定する。
「よし、分かった」
冊子を閉じる。
他にも色々細かい事が書かれてあったが、早急に覚えなければいけない内容はもう無さそうだ。
集中して本を読んでいて、頼んでいた料理が来ていたのに気付いていなかった。豆を軽く揚げて塩を振ったもののようだ。確かにつまみやすくてうまい。酒のあてにはいいな。
そういえば、この世界の成人っていくつなんだろうか。精神年齢的には大丈夫なんだが。
今日はやめとくか。
ざあっと豆を口の中に流し込み、料金を支払う。ロメロ銅貨2枚だった。安い。
冊子を返却し、ギエロに軽く挨拶してからギルドを出た。彼らは頑張れよ、と声をかけてくれた。しばらくはこの街に滞在するつもりだし、彼らとは仲良くやっていきたい。
とりあえず宿を探そう。宿が見つかったら、適当に街を散歩してみようか。今日のところは何か依頼を受ける気はない。
ギルド周辺には多くの宿があった。
3軒ほど入って、どこも部屋が空いていないと言われた。
4軒目でやっと部屋が見つかった。
「一番安い部屋でいい」
「1泊銅貨5枚だよ」
「じゃあこれで」
金貨を1枚出す。
店主は少し驚いた顔をして、20日分だなまいど! と上機嫌になっていた。
鍵を受け取り、説明された2階の一番奥の部屋に入る。基本奥の部屋から入ってもらうらしいが、丁度この部屋は昨日空いたそうだ。
部屋の中はシンプルで、6畳ほどの部屋にベッドと机、椅子が置かれているだけだ。
お湯や水が欲しい時はその都度店主に伝えてくれれば用意してもらえる。
食堂は併設されていないので食事は買ってくるか外で取ってくれとのことだった。
ベッドを少し手で押してみる。固い。流石に銅貨5枚、そこらへんは元より期待してない。
宿を出て、街中をのんびり見て回ることにした。
ボーッと歩き回っているだけだが、この街が良く栄えてるのは分かった。
店は多く、商人らしき者達は慌ただしく動いている。
人間以外の種族もちらほら見える。獣の耳や尻尾が付いている者たちに、背が極端に低く恰幅の良い者たち、耳が長く額に3つめの目がある者たち。
それらが獣人族や耳長族なんだろう。背が低いのはドワーフだろうか。
「おう兄ちゃん、見ていかねーか?」
「悪いけどまた今度な」
今声をかけてきた商人も獣人族だ。今の所種族による差別は無いように見える。
たまに、首輪を付けた者もいる。種族や年齢に統一性はなく、ほぼ全てが誰かに従うように動いている。
多分、奴隷だ。
この国だけなのか世界的になのかは分からないが、奴隷制があるのは間違いないようだ。
ただ、奴隷と言っても彼らは皆生き生きと働いているように見えるし、不当な暴力を振るわれたりもしていない。身分で言えば奴隷になるのだろうが、少なくとも物のような扱いはされないみたいだ。
面白い。こうやって街を歩いて見て回るだけでも楽しめるもんだな。
路地を通って入り組んだ街の奥へ行くと、奴隷の市場や冒険者用の道具屋などが建っている。
奴隷市場では、ステージのようなところがありそこに奴隷が立たされ、オークション形式で売買が行われていた。大抵の奴隷が必死にアピールしていた。
金のある人物に買ってもらえれば相応の待遇をしてもらえるのだろう。
俺は、今の所奴隷を買うつもりはない。金もないし、何より地球の常識がある俺からしたら奴隷制ははっきり言って不愉快だ。
この世界の常識がどうであろうと、俺の心情的に積極的に奴隷を買おうとは思わない。
奴隷制を廃止したいとかそういう訳ではなく、ただ、俺が買わないだけだ。
日が落ちる頃まで俺は街を見て回り、宿に戻った。
買ったのはこの街、メロの街周辺の地図だけ。
この街はロメロ王国の一番北にある街で、大陸北部にあるアイガ王国との交易が盛んで重要な街らしい。
ここから更に南西に1ヶ月も移動すれば、海沿いの首都ロメロニアンがある。
ポメラニアンの亜種かよ。
しばらく行く気はない。
店主に言ってお湯を貰い、体を拭いて今日は寝ることにした。
寝ようとしたが、藁の束に集めの布団が敷かれただけのベッドは寝心地が悪く、ログハウスの頃のように部屋の隅で薄い掛け布団にくるまって寝転がる。
これに慣れてしまったからな。多少窮屈なくらいじゃないと眠れない。
明日はどうしようか、なんてことを考えながら、俺の意識は深く沈んでいった。
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