第8話 街へ
師匠と離れて1ヶ月が経った。
俺は未だに森を抜けられていない。野草や魔獣がいるので食料には事欠かないが、今いる辺りは森の中でも初めて来るような場所だ。見たことがないような強力な魔物も居るかもしれないので早めに人間の居る場所に出たい。
ちなみに、魔獣と魔物はほぼ同じ意味だが、魔獣は動物が多量の魔分により変化したもの、魔物は生まれながらに異質な存在となっている。
基本的に魔物の方が危険度は低い。
―――――
さらに1ヶ月経った。まだ俺の視界は森一色だ。
師匠との訓練で森の中で方向を狂わされずに進む方法も教わったし、迷ってはいないはずだが、未だに大森林を抜けきれない。
毎日4時間近くは走っているのだが。
もちろんずっと走れるわけではないし、戦闘する体力も残さないといけないので、全力ではないがそれでも相当なスピードで走れる。
森の中にも山があって迂回したり、ちょこちょこ戦闘したりでタイムロスはそれなりにあるが、それでもかなり移動したはずだ。どうやらこの森は広いなんてもんじゃないらしい。
―――――
数日後、森を抜けることが出来た。クソ広い森ともこれでしばらくはお別れだ。
草原をしばらく歩いていると、石で舗装された道を見つけた。おそらくこれが街道で合っているだろう。
太陽の位置を見て方角を確認し、西へと向かう。目に見える全てがこの世界で初めて見るものだ。見逃さぬようにとのんびり歩きながら進んでいく。
どうやら俺は北西に寄り過ぎていたようで、街道はどんどん南下していった。
5時間も歩いたところで遠目に立派な城壁が見えてきた。
「おお、おお! この世界で初めての街だ!」
思わず走り出した。
城壁は緩やかな曲線を描いて街を覆っており、街道を進んで正面に大きな門が見える。
昼を少し過ぎた中途半端な時間というのもあるのか、門の前に俺以外の街に向かう人影は無かった。
門の前には2人の武装した門番が立っていた。全身鎧に槍を立てて突っ立っている。
強い。2人相手にしても遅れを取ることは無いだろうが、俺が判断を間違えればかなり長引くだろう。
「おい、止まれ。身分証はあるか」
「え、あっ、無い・・・です・・・」
師匠は戦闘や旅の知識は教えてくれたが、一般的な常識などは教えてくれなかった。
一回だけ聞いた事がある。なぜ街に連れて行ってくれないのか、貨幣の知識などを教えてくれないのかと。
いつか自分で知ったほうが面白いだろう、と返ってきた。
5年で分かったが、あの人の行動原理は面白いか否かで大半が別れる。勘弁してほしかった。
「よし、じゃあ服脱げ」
「えっ」
「下着を残して服を全部脱げ」
「・・・通行税代わりに体で払えってことですか?」
「ぶふッ」
黙って見ていた門番の一人が吹き出した。
童貞のまま処女を捨てるなら流石に街に入るの諦めます。
「ちっ、ちげえよバカ野郎! 犯罪者の烙印が無いか確認するだけだ!」
「ああ、安心しました」
パッと服を脱いで確認してもらう。国によって場所は違うが、犯罪を犯した者は烙印を押されるのだという。凶悪さによって形や個数が異なるそうだ。
烙印が無いことを確認してもらってさっさと服を着る。俺に露出の趣味はない。
「名前は?」
「カズヒロ・タナカです」
「珍しい名前だな」
「まあ、他に聞きませんね」
聞かないも何も街に出たことが無いからな。
「年齢は?」
「15です」
「・・・そりゃあ随分と、若いな」
門番が少し動揺した。
そりゃそうだ、身長が180センチあって、筋肉モリモリだからな。とても15には見えないだろう。精神年齢はだいぶ上だけどな。
「貴族街には入れないが、平民街なら問題はない。身分証は、この街だと冒険者ギルドで登録するくらいだな」
「冒険者ギルドがあるんですか?」
「ああ、身分証としての効力は薄いが、少なくとも通行料は安くなるし作って損はないぞ」
そう言ってギルドの位置まで懇切丁寧に教えてくれた。
なんていい人なんだ、俺の尻を狙ってるとか疑って済まない。
「じゃ、通行料は銀貨2枚だ。身分証があれば1枚なんだがな」
「・・・あのー」
「なんだ?」
「無一文だと、どの街も入れない・・・ですかね?」
門番2人が顔を見合わせる。
「あー、そうだな・・・魔物を狩ってきて、それを持ってきたら買い取ってやる。特徴のある部位だけでもいい」
「行ってきます」
なかなか魔物が見つからず、街に入れたのは翌日の朝だった。
門番は別の人になっていたが、話を通してくれていたらしくスムーズに事は進んだ。
丸々1匹牙のでかいイノシシを運んだら少し驚かれたが、丸ごと担いできたことに驚いたようでイノシシが特段珍しいとかでは無いようだ。
金貨9枚と銀貨8枚になった。金貨10枚で買取、そこから通行料を差し引いた形になる。
これから冒険者としてやっていくつもりなら色々入用になるだろう、と買取に色を付けてくれたらしい。
この街の門番は聖人で構成されてるのか?
「では、ようこそ、メロの街へ」
―――――
こうして俺は初めて街に入った。
名前はメロの街。しばらくはここを拠点にしようと思う。まあ、拠点も何も旅の目的さえ決めてないからな。
大勢の人が歩く姿、建ち並ぶ建物に感動して立ち止まっていたら、人々の視線が俺に集まっている事に気が付いた。
そんなに田舎者丸出しだったか、と少し恥ずかしくなる。服もボロボロの麻の服だし、そりゃ気になるか。
とりあえず服屋で平凡な布の服とズボン、皮のブーツを買い揃えた。帯剣用のベルト、腰につけるポーチも買って金貨2枚のところを1枚と銀貨8枚にまけてくれた。最初に着ていた服がボロボロだったからだろう。
この服も同情されるくらいボロボロになるまで着よう。
「うし、行くか」
大通りを通り、街の中心にある広場へと向かう。
途中いくつかの店を見て物価を確認したが、よくわからん。店によってかなり値段が違う。
野菜が1カゴで銀貨1枚だったり、銅貨5枚だったり。武器屋ではごく普通の剣が金貨3枚で売られていたり。
金貨の上には宝貨なんてのもあるみたいだ。
パッと見た感じ、銅貨が100円、銀貨が千円、金貨が1万円、宝貨が10万円くらいだろう。
売ってある物の細かい値段の違いは品質や材料の差だと思う。
ロメロ金貨何枚、って感じに書かれてあるから他の国の貨幣もあるんだろう。てかこの国の名前はロメロか。今知ったよ。
街行く人々は誰もが裕福ってわけじゃ無さそうだが、不幸せそうでもない。それなりの格好をしていて、皆それぞれ幸福そうだ。いい雰囲気が流れている。
初めての街がここだったのは僥倖かもな。
広場に着いた。ここが街の中心らしく、縦横に街を走る二つの大通りが交錯する場所。人が多く、露店や大きな商店があり賑わっている。
教えてもらった話ではここの南側にある2階建ての大きな建物らしいが・・・あった。
看板にしっかりと『ロメロ王国冒険者ギルド』と書かれている。国営なのか?
中に入ると、よくあるファンタジーのギルドといった様相で、入って右手に酒場、左手に受付カウンター、正面奥の壁に依頼書らしきものが多く貼り付けられている大きな掲示板がある。
入り口近くできょろきょろと中を眺めていると、武装した強面の大男が俺に近づいてきた。革鎧に身の丈近い大きさの大剣と、いかにも冒険者らしい見た目だ。
これはまさか、よくあるあれか!
ガキの来るところじゃねえよって脅されるアレだ!
今まさに絡まれそうだという状況なのに、俺はニヤケ顔を止めるのに必死だった。
男が俺の肩にぽん、と手を置いた。
来た!
すぐさま戦闘出来るように足の位置を整え、男に顔を向け―――
「なあ、兄ちゃん。俺達の仲間にならねえか?」
「・・・は?」
―――アホ面を晒した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます