8日目

朝、耳を裂くような母の大声で目を覚まし、朝から元気だなぁとぼんやり思う。

それから午前中はずっとダラダラしていたのだが、本当、わたしの危機感の感じなさには自分で驚く。何年も何年も前、小学生の時からこれは病気とか障害レベルだと思いつつ、どうにもできない。


お昼、姉が母に「このカレーって辛い?」と聞くと、母は「辛いの?」と返し、わたしは姉と顔を見合わせた。答えになっていないことに本人は気が付いていない。


午後はちょっと小説を書いたりして、夕方。社会教師への暑中見舞いを出しに郵便局へ。学校とわたしの家の間に郵便局があるため、社会教師が学校からウォーキングしに来る時間を見計らって夕方に決めた。道中で会ったらそのまま歩きながら話そうとでも思った。夕方といえど、日傘をさしていても暑かった。まぁでも、首の手術をしてからは動くこと控えていたし、散歩がてらには良いかなと思う。


郵便局に着く前に社会教師と1度すれ違ったけれど、お互い来た方向も向かう方向も逆なのでとそのまま一旦別れて、わたしは郵便局で、社会教師はわたしの家の少し先でUターンして、もう1度すれ違う。


読み終わったからと、貸していた本を返された。思ったより読むのが早かった。

そして今日も暑中見舞いの話。「もう出そうかな…」と社会教師が言う。え。とわたしが返す。「いや、残暑見舞いにしようと思って書いたんだけど、もう暑中見舞いにしちゃおっかなぁ…」いや、書くの早いでしょう。今さっきわたしがポストに投函したところなのよ。わたしからのが届いてから書けば良いのに。返事なんだから。

「…待ち切れないんですか?早くわたしに届けたくてしょうがない?」

「……そういうこと言う?」


なんだかんだ別れて、わたしは帰って、すると玄関前に母がいた。なにやら機嫌が悪い。「…さっき社会教師通ったんだけど。アンタ、時間見計らって行ったの?」何が気に入らなかったのかはよく分からない。わたしが社会教師と会っているのは知っているのに。何度も見ているはずなのに。「…アンタ達、何してんの?」怒ったような強い口調で言う母を見てようやく気が付く。わたしと社会教師の関係を疑っているわけだ。……母が疑うような、やましい関係なら良かったよ。こんなに怪しいのに、わたしと社会教師にやましいことは何一つとして無い。ただ本当に会っているだけで、この先もずっと手を出されることなんてありえない。社会教師はそういう人ではない。まぁ、わたしには残念なんだけどね。…でも、母の機嫌が悪いのはわたしには死活問題だ。しばらく会わないように、しなくちゃならない。…仕方ないことだ。


自室に入って返された本をパラっと捲ると、何かが挟んであることに気が付く。ハート型に折られた…原稿用紙…。思わず大笑いした。開いてみると、全文字カタカナで、本の感想が書いてある。昨日や一昨日言っていたことと同じようなことだった。とにかく気に入ってとにかく面白かったらしい。

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