5話

 朝起きた俺は、寝起き早々頭を抱えていた。


「どう考えてもプロポーズだったよな。俺のために生きてくれ、なんてさ。しかも中学生相手にだよ? 絶対やばいやつって思われてるじゃん!」


 昨日の夜は興奮していてなんとも思わなかったけど、冷静に考えるとやばいよなぁ。

 愛咲がどう捉えたかはわからないが、気まずくなる事確定だろ。


 結局愛咲が起きてくる事はなく、仕事に行かないといけない時間になったため、慌てて着替える。


「これでよし。行ってきまーす」


 置き手紙と合鍵を置いて家を出た。

 勿論返事が返ってくる事はなかったが。


 会社に着き、自分のデスクに座りひと息いれると、隣から声をかけられた。


「おいおい、朝から疲れたような顔してなんかあったのか?」


 俺に話しかけてくれたのは、唯一友達の中島龍人《なかじまたつと》だ。高身長イケメンで、モテモテな彼と最初は関わる事はないと思っていたが、今はこうして仲良くしてもらっている。

 まぁ龍人からしたら、数いる友達の中の1人だろうが、それでも俺にとってはありがたい事だ。


「いや、ちょっと昨日新たな黒歴史を作ってしまってな」

「黒歴史って、また何やらかしたんだよ」


 隣でゲラゲラ笑っているが、それも様になってて、なんだか腹立たしい。


「中学生相手に、プロポーズまがいの事してしまった」


 そういうと、龍人はすぐ携帯を取り出した。


「あっ、もしもし警察ですか? ここにロリコンを拗らせすぎた痛すぎる男がいるんですがーーーーーー」

「ちょっ、ちょっと勘弁してくれ。警察だけはやめてくれ」

「安心してくれ。警察に電話かけてないから。話によっちゃ、だがな」

「簡単に言えば、親父の親友だった人の娘を俺が引き取ったって感じだ。その後、俺のために生きてくれって言っちゃっただけだよ」

「なるほどな。それにしても、随分と臭いセリフだな。俺のために生きてくれって、プロポーズじゃん」

「そーなんだよな。ただ、両親が死んで、生きてる意味がないって言われたからよ。だったら俺のために生きてくれって思ってさ。よくよく考えたら、他にもっと違う言い方とかもあったかもしんないし」

「別にいいんじゃねーか? その子にとって、今は亮介が生きる意味になってもさ。そっから違う事に生きる意味を探し出せたら、それはそれで万々歳なんだし」

「……そっか。なら、俺の言った事は間違いじゃなかったんだな」

「まぁそうだな。ただ、プロポーズした事には変わりないな」


 そう言ってまた笑いだす龍人。

 そんなに笑わなくてもいいじゃんかと思うが、俺も龍人がそう言ってきたら笑いころげていることだろうし。


「だよなぁ〜」

「まぁ将来結婚出来なさそうだったら、いっそ結婚しちゃえばいいんじゃないか?」

「結婚って、ひとまわりも歳離れてるんだぞ? それに結婚できる歳になった頃には俺はもう三十路だぞ? そんなおっさん相手にしてくれんだろ」

「それはわからないんじゃないかなぁ〜? もしかしたら脈アリかもよ?」

「ないない。二十歳超えたら家から出ていくのがオチだろ」

「まっ、その時になってみないとわからないか」

「だな」


 でも、龍人に言えてよかった。ここで気軽に話せるのって龍人しかいないからな。ほんと感謝しないとな。


 あれから仕事をこなし、気づけば定時の時間になっていた。丁度いい所までできていたため、パソコンを閉じ、帰る準備をする。


「亮介も今帰りか? ならこれから飲みに行かね?」

「いや、まだ週初めだし遠慮しとく。それに今日は買わないといけないのあるし」

「そっかぁ〜。ならまた今度だな。じゃ、また明日な。お疲れ」

「また明日。お疲れ様〜」


 龍人と別れた後、俺は布団を買うために移動する。流石に毎日ソファーだと、身体疲れるしな。


 布団を買って時間を確認すると18時30分とそれなりに時間が経っていたため、急いで家に帰る。愛咲も待ってる事だろうしな。


 家に着いたのはいいが、灯りが着いていなかった。もしかしたら、もう寝てしまったのかもしれないし、ご飯作って起きてくるの待っているか。そんな事を思って家の中に入ったが、愛咲の靴がなかった。出掛けているみたいだった。

 まぁ、1時間くらい待ってれば来るだろうと思っていたが、1時間経っても2時間経っても全然帰ってこなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る