2話
次の日は午前中をゆっくりと過ごした。昼ごはんを食べた後、荷物の準備を終えた俺たちは、東京に向かう。1時間半位で着くんだが、
愛咲と会話らしい会話ができなかった。
昨日は事情が事情だったため、会話できていたが、改めて会話しようとすると、緊張する。これまで女性という女性と接する事どころか、会話らしい会話をした事がなかったし、どうしたもんか。
家に着いてからも微妙な空気は変わらなかった。
「愛咲、今日は何食べたい? リクエストあれば作るぞ?」
なんとか絞り出した台詞はご飯の話だった。真っ先にご飯の話をするあたり、コミュニケーション能力のなさに我ながら呆れる。
「さっきご飯食べたばかりなので、まだ考えられない、かな?」
「そりゃーそうだよな。ごめん」
「い、いえ。……ふふっ」
「ねぇなんでいきなり笑うんだよ? えっ、もしかしてなんかおかしな事言った?」
「いえ、なんでもないですよ?」
「いやいや、いきなり笑われたら気になるからね?」
「まぁ、そんなの気にしなくていいじゃないですか」
「それもそうだな」
「はい!」
そこで会話が途切れてしまう。
女性、それもひとまわりくらい小さい女性と、なんの話をしたらいいのか全く分からない。
「あの。改めて、私を引き取ってくれてありがとうございます! これからはなんでもします!」
「なんでも、か」
「はいっ! といっても、私にできる範囲でで、ですけど」
「なら、洗濯と風呂掃除は頼もうかな」
「そんな事だけでいいんですか? それだけじゃ私の気が収まりません!」
「それだけで十分だよ。愛咲が毎日楽しく過ごしてくれてれば、それだけでいいんだよ」
愛咲の頭をポンポンしてから撫でる。
……撫でてから気づいたが、これセクハラになるんじゃね? いや、愛咲から「やめてとか、触らないで」って言葉がとんできていないから大丈夫、か?
「す、すまん。どうか訴えないでくれ」
「……大丈夫ですよ。でも、次許可なくいきなり触ったら、もしかしたら訴えるかもしれませんね!」
「それだけは勘弁してくれ」
「ふふっ、じょーだんですよ! 訴えたりは絶対にしませんから!」
「ならよかったよ」
「はい!」
「あーそれと。愛咲の部屋もちゃんとあるから、今日からはそこ好きに使っていいぞ」
「えっ? いいんですか?!」
「おう! 流石に自分の部屋がないときついだろ?」
「ま、まぁそうですね」
「だから、好きに使ってくれ」
「……すみません。ありがとうございます!」
「おう! ただ申し訳ないんだが、今日だけは俺の布団使って寝てくれ。……まぁ臭くて寝られないと思ったら、使わなくてもいいからな」
まさかこんな事になるとは思っていなかったため、布団を干したりはしていなかった。
それに洗濯をしてるわけでもないため、臭いのは当たり前だ。愛咲がそれに寝ると思うと悪いことをしたと思うが、床に直接寝るよりはマシだと思う。
「わかりました。……もしかして、私が使う部屋って京介さんが使ってた部屋でしたか?」
「お、おう。といっても、ほとんど寝る以外に使ってないから、汚くはないと思うが」
「……ご、ごめんなさい。私が使って迷惑じゃないですか?」
「そんな事気にしなくていいぞ? ほんとに寝る時以外は使ってなかった部屋だしな。遠慮なく使ってくれ」
「……それじゃ、遠慮なく使わせて頂きますね」
「おう。そうしてくれ」
「はい!」
これで部屋の問題は解決だな。といってもまだまだ問題は山積みだ。今まで一人暮らしだったものが、いきなり二人暮らしになるのだ。愛咲用の家具だって揃えないといけないし、俺の布団も買わないといけない。……いや、俺用の布団というよりは愛咲用のだな。
「そういや、愛咲って何歳なんだ?」
「13歳の中学2年生です!」
「13歳?! ま、まじかよ。俺とひとまわりも若いのかよ」
「ということは、京介さんは25歳なんですか!」
「お、おう。そうだぞ。まぁとりあえず、買い物しに行こうぜ」
「買い物ですか? あっ、食材買いに行くんですね!」
「いや、香織用の生活必需品とかを買いにいかないとだろ?」
「なるほどです! それじゃ、行きましょう!」
「とりあえず時間もないことだし、スーパーで揃えれるものだけそろえようぜ」
「はいっ! って、まだ15時なので時間ならたくさんあると思いますよ?」
「明日仕事だし、疲れを残したくないんだよ」
「な、なるほどです」
「……それに、愛咲も疲れてるだろ? ぱっぱと行ってその後はゆっくり休もうぜ」
「……そうですね。ありがとうございます」
後半の方はボソボソ言っていたためなんて言ったか聞き取れなかった。
「うん? なんか言ったか?」
「何も言ってませんよ?」
「そうか。そんじゃ、行きますか!」
「はいっ!」
近くのスーパーに行き、夜ご飯の材料を見ながら、愛咲用の歯ブラシなどもみる。
「聞くの2回目だけど、何か食べたいのあるか?」
「うーん。オムライスとかですかね?」
「オムライスでいいのか? ふっ、なんか可愛いな」
「あーっ、鼻で笑った!! ひどいですー!」
「わ、悪かったよ。それじゃ夜はオムライスにするか」
「ちゃんとケチャップで文字も書いてくださいね?」
「……わかったよ。なんて書いて欲しいんだ?」
「そこは京介さんに任せる!」
「了解。そんじゃ卵買うか」
「はいっ!」
その後、お肉や野菜もカゴに入れた。歯ブラシとコップもカゴに入れ会計する。
「そんじゃそろそろ帰ろうぜ」
「そうですね!」
家に着いてから早速パジャマに着替える。
「そういや、愛咲は明日は学校行くのか?」
「……いえ、忌引きで1週間は休みもらいました」
「そ、そうだよな」
や、やっちまったー! 親が亡くなった時は、1週間学校を休む事くらい知ってだじゃないか。なんでここで明日は学校か? なんて聞いたんだよ。俺のバーカバーカ。
「……はい。なので明日は家の掃除してますね?」
「……わ、悪い」
「お、おう」
さっきまでなんとか普通に話せてたのに、俺があんな事を聞いてしまったが故に空気が重くなってしまった。
「そろそろオムライス作るね」
「はい。……楽しみにしてますね」
俺はその場から逃げる様に台所に向かった。
その後は無心でオムライスを作った。
オムライスは上手く出来たが、なんて書こう。
「……これにするか」
出来たオムライスにケチャップで言葉を書き、それを愛咲の元に持っていく。
喜んでくれるといいんだがな。そんな事を思いながら持って行くのであった。
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