1話
家に着いて早々、額に青筋を浮かべている母さんに呼び出された。
やべーよ。あんな母さん見たの久しぶりなんだが。怒られるの確定じゃねーかよ。
「あんた、後先考えずに決めてきたよね?
あんた結婚もまだしてないのに、子供を引き取るなんて考えられないんだからね?!」
「……ごめん」
「子供を育てるって事がどれだけ大変なことかわかってるの?!」
「……ごめん」
「お金だって沢山かかるし、自分の自由な時間なんてなくなるのよ?!」
「……わかってる」
「引き取ると決めたからには、最後まで面倒みるんだよ!」
「わかってる」
さっきまでの怖い雰囲気がなくなった母さんに少し安堵する。
……当たり前、だよな。いきなり子供を引き取ると息子が言ってきたら、家族なら当然何をしてるんだと怒るだろう。
「それにしても、愛咲さんの親戚がみんな残念な人しかいないとわね」
「そーなんだよ。それでカッとなってつい、な」
「はぁ。その癖、お父さんによく似てるわ。その癖、なおしたほうがいいよ?」
俺だけじゃなく、親父にまで流れ弾が当たった気がするんだが。
「ま、まぁ今回はいい方向にいったってことで、勘弁してくれ」
「それもそうね。それじゃ、2人のところに戻りましょ」
「だな」
俺と母さんは親父達が待っているリビングに向かう。
親父と愛咲は楽しそうに話ししている。話し声が廊下まで聞こえてくるくらいだから、相当盛り上がっていたのだろう。
その中に俺たちも加わったが、結局俺だけは話せないままだった。
「あんた、何おとなしくなってるのよ。いつもみたいに話せばいいじゃない」
「んな事言われたって、何話せばいいのか分からん」
「なんだ亮介、緊張してるのか〜? まぁ彼女どころか女の気配すら無いからしょうがないか」
「うっ、うっせえよ。別にいいだろ、そんな事はよ」
「亮介さん、彼女いた事ないんですね〜。なんか意外ですね。つくる気がないんですか?」
「そ、そうか? まぁつくる気がないんじゃなくて、作れなかったんだよ。ようはモテた試しがないって事だな」
言ってて悲しくなってくる。
……自分が好きになって関わった人は、みんな俺のことを嫌いになってたし、関わる事すらも断ち切られた。毎日RAINしてたのに、いきなり連絡来なくなるんだぜ? しかも学校であっても、挨拶だけして終わったりとかが普通だった。
「そうなんですね。てっきり何人かいたと思ってました。そんなに顔が悪いわけでもないですし」
「お、おう。そうなのか」
「はい!」
「亮介は全然女っ気がなくてなぁ〜。25歳になっても彼女の1人も紹介されないし。俺の息子なんだから、モテてもおかしくないんだけどな」
笑いながら俺の肩をバシバシと叩いてくる親父に少しイラッとするが、事実なので何も言えない。
親父がモテてたとしても、俺がモテるかどうかなんて関係ないだろ、とは思う。
現実的にモテなかったんだからしょうがない。
「ちょっとお父さん。そんな事言ったら亮介が可哀想でしょ? いい歳になっても彼女ができないって事は、もう諦めるしかないんだから! 私たちが察してあげないとね!」
「まぁそうだよな〜。まっ、孫は諦めるしかないか!」
親父達の中で、俺が結婚できないのは確定事項らしい。というか、母さん酷すぎだろ。そこまでいう必要ないでしょうに。
愛咲も苦笑いしかできていないみたいだ。
その後も楽しく会話をして、あっという間に時間が過ぎ去っていった。あんなに話していた親父達だったが、愛咲の両親が死んでしまった事については何も触れなかった。
もういい時間になり、愛咲が眠そうに瞼を擦っているため、2階の部屋に案内する。俺の部屋以外にも、もう一部屋あるためそこに布団を敷いておいた。
「おやすみ。ゆっくり休んでくれ」
「おやすみなさい。亮介さん」
愛咲が寝たのを確認してから、下に降りる。
すると、親父達に呼び止められた。
「そういや、寝る前に言っとく。香織ちゃんとは、養子縁組をする事にしたから。そうしないと、なにかと不味いからね」
「了解。手続きの方も頼んだぞ」
「任しとけ! 亮介は香織ちゃんのこと、しっかり面倒見るんだぞ! 何かあったらいつでも相談しろよ?」
「……頼りにしてる」
「それにしても、あんたが子育て、ねぇ。自分の子供もいないのに本当に大丈夫かしら?」
「なんとかやっていくよ。それにうちの会社は、残業殆どないからなんとかなるだろうし」
「ならいいけど。育児放棄したら、絶対に許さないんだからね!」
「わ、わかってるよ」
「ならよし。それじゃ、あんたも早く寝なさいね!」
「おう。そうする」
俺も自分の部屋に行き、布団に入った。
目を閉じると、今日の事が思い出される。
明日から愛咲と生活していくと考えると、なかなか眠りにつけない俺であった。
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