社畜な俺とアイドルになった彼女 〜本物の家族になります〜
こめっこぱん
プロローグ
25歳独身、会社で働く社畜だ。まぁ社畜と言っても、週休2日で残業もほぼないという、とてもホワイトな会社だ。
そんな俺、内藤亮介は絶賛帰省中だ。
現在、俺は葬式に参加していた。親父が小さい頃から仲良くしていた親友が亡くなってしまったからだ。交通事故だったそうだ。
俺も小学生の時に何度か親父に連れられて、家に遊びに行ったことがあるが、その時もとても良くしてくれたことを覚えている。そのあと、親父の都合で引っ越してしまったが、親父はちょくちょく会いに行っていたみたいだが。
本当は親父だけが参加する予定だったが、丁度仕事が休みで、実家に帰っていた俺も自分の意思で参加していた。
葬式も終わり帰ろうとすると、奥の方から親父の怒鳴り声が聞こえてきたため、俺もその場に向かう。
「親父、なんかあったのか?」
「なんかあったも何も、こいつらがあいつの事馬鹿にしてるのが腹たってな。こいつらがあいつの親戚だなんて、考えられん」
「そ、そうか」
「それより、そろそろ帰ろうぜ」
親戚達は、誰があの子を引き取るのかの話をしていた。その会話を聞いていると、「施設でいいでしょ」で話がまとまりかけていた。だが、「あいつの娘にしては可愛いから、大きくなったら沢山客とって、稼いでもらうってことでなら、引き取ってもいいぞ? 」という話が出されてから、みんなそれもありだなみたいな事を言っていた。
……こいつらは本当に屑の集まりだな。
隣にいる親父も青筋を浮かべ、今にもキレ出しそうな勢いだ。むしろよく我慢している方だろう。
俺はふと、彼女の顔を見る。
ああ、その顔を俺は知っている。何もかもを諦めている顔だ。
子供にそんな顔をさせちゃ絶対にダメだ。それも、いい大人達のせいでとなると尚更だ。
その顔を見た瞬間、俺は声をあげていた。
「だったら、俺がこの子を引き取りますよ。あんたらに任せてたら、この子にとって悪いことしかないですし」
「な、何よ。あなたこそ部外者なのにこちらの事に口出ししてこないでくれる?」
「さっきから、屑な発言ばかりしてる自覚あるます? 稼がせるために引き取る? 何馬鹿な事言ってるんですか? この子はあんた達の道具なんかじゃないんだぞ?」
「そ、それでも、この子を引き取るメリットがないと」
語尾は弱くなっているが、やっぱりこいつらじゃダメだわ。
「だから、俺が引き取りますよ。そのかわり、あんた達には2度と近づけさせませんから」
「な、なんでよ! それは横暴じゃない?!」
「横暴? 大きくなったら客取らせるつもりなんですよね? そんな奴らにこの先も合わせることになったら、それこそ彼女が可哀想ですよね?」
「……」
「だんまりですか? ならもう話すこともないので、お引き取り願います。彼女は責任を持って俺が引き取るので安心してください」
そのまま彼女の親戚たちはなんの反応もせず、引き下がっていった。
その場に残ったのは俺と親父と、彼女だけになった。
彼女はどうしたらいいのかわからないのか、オロオロしだしてしまった。
そこでハッとする。
俺は怒りに任せて彼女の親戚の方達に、屑だのなんだのと言ってしまっていた。彼女のことも考えずに、言いたい事を言ってしまった。
「悪い、親父。腹立ってて、なんも考えずに言っちまってた」
「いや、亮介が言ってなかったら俺がボロクソ言ってたところだ。寧ろよくぞ言ってくれた! って感じだな」
「ならよかった。そんじゃ、彼女のところに行って説明してくるわ」
「わかった。んじゃ、俺は母さんにこの事説明しとくわ」
親父の言葉に軽く頷き、俺は彼女の元に向かう。
俺が近づくと彼女は一瞬ビクッと肩を震わした。
そりゃーそうだよな。知らない人がいきなり引き取るとか言い出して近づいてきたのだから、警戒くらいするだろう。
「君、名前はなんていうの?」
俺は努めて優しい声で話しかける。
もちろん目線を合わせる事も忘れない。
「……愛咲香織です」
「愛咲か。よろしく!」
「…お兄さんは何て言う名前ですか?」
「俺は内藤亮介だ。愛咲のお父さんとは昔何度か遊んでもらってな」
その事を話すと愛咲の表情が和らいだのを感じる。
「……そうだったんですか。それで、私を引き取る事になったんですか?」
「いや、まぁ親戚の人に腹がたっちゃってね? 勢いで引き取るって言ったけど嫌だったら言ってね?」
「寧ろ、私を引き取ってくれてありがとうございます! 正直、私も親戚の所には行きたくなかったのでラッキーでした」
そう言ってにこやかに笑っている愛咲を見ていると、少しホッとする。
「愛咲の親戚は前からあんな感じの人しかいないのか?」
「そうですね、前から両親とは仲良くなかったみたいです。そもそも、親戚と会ったのも今日が初めてってくらいですからね」
「ま、まじかよ。それであんな事言ってたのか」
「まじです」
「それじゃ、俺の親父の所に行くか」
「はい」
親父も丁度電話が終わっていた。
「話はすんだか? って香織ちゃんじゃないか! 大きくなってたから全然気づかなかったよ!」
「愛咲とは面識会ったのか?」
「小さいときにな。だから香織ちゃんは覚えてないだろうけども」
「おじさん、誰?」
「やっぱりか〜。おじさんは内藤武だよ。こいつのお父さんだよ!」
そう言って俺の肩を組んでくる。
「ちょっ、いきなり肩組んでくるのやめてくれない? 痛いんだけど」
「悪い悪い」
「武さん、よろしくお願いします」
「よろしくね、香織ちゃん」
「はい!」
親父の簡単な自己紹介も終わり、本題に入る。
親父は引き取ることに大賛成みたいだが、母さんがそれをよしとしてくれるかわからない。
「……そんで、母さんはなんか言ってた?」
「最初は驚いて呆れてたけど、最終的には納得してくれたぞ」
「ふーっ、ならよかった。そんで、これからどうすればいい?」
「とりあえず、今日はうちに連れて行くしかないな。亮介が帰るときに、そのまま香織ちゃんを連れて行った方がいい」
「わかった。そんじゃ、荷物まとめて帰りますか」
俺たちは1時間半くらいかけて隣の千葉県にある実家に向かう。
道中も、親父と愛咲は話していたが、俺はそこまで会話も出来ず、気まずい雰囲気のままだった。だが、これから一緒に暮らして行くのだから、なんとかスムーズに会話が出来るくらいまでにならないとな。
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