第22話「強欲の悪魔マモン」

「オイオイ、天使様よォ。盗みも立派な犯罪だぜェ?良いのか、正義の天使様が

罪を犯してもォ」


天使、いや堕天使ガブリエルを挑発するのはアンジュが出会っていた式典参加者の

男だ。


「貴様…強欲の悪魔マモン!!」


純白の服は漆黒に染まり男は笑みを浮かべた。


「大嫌いな悪魔の名前を覚えててくれたのかァ?こりゃあ嬉しいぜェ!どうだ?

俺が作った聖杯はソックリだったろう?今じゃテメェの吐瀉物で汚物に

なっちまったがなァ!!」

「穢れた悪魔め!何処まで我々天使を貶せば気が済むのだ!!?この世の塵くず風情が!」

「そう言えばァ、テメェ等は人間もゴミとして見てるんだったなァ…ガワだけ

良い人の振りをして信仰心を集めて。人間の間じゃあ、そういう奴はぶりっ子とか

言ってよォ嫌われるらしいぜ?」


ガブリエルは額に青筋を浮かべる。下に見ている悪魔に好き勝手言われて

苛立っているのだろう。マモンはそんな天使の罵声を背中に聞きながらアンジュの

元に歩み寄った。


「よォ賢い嬢ちゃん。ちったァ悪魔もカッケエだろ」

「…!はい!天使なんかよりもずっとカッコイイです!!」


マモンは歯を見せて笑いアンジュの頭をクシャクシャと撫で繰り回す。彼だけに

とどまらずグリフィスやエキドナたちにとっても十代後半の少女アンジュは孫か

それに近いように見えているのかもしれない。


「(せめて魔導書だけでもぉッ!!!)」

「天使様が不意打ちかよ。しっかりここを狙わなきゃ駄目だぜェ?」

「この、外道がッ…!!」


魔導書を自由自在にするためにはアンジュがいなければならない。死体では

役に立たないので天使たちは彼女を傷つけることが出来ないのだ。悪魔らしい

恐ろしい考えだが効果的だった。


「ちょっと!!!今、今すんごく怖かったですよ~~~~!!!」

「これが悪魔のやり方って奴さァ。大丈夫、嬢ちゃんを囮には使うが傷つけよう

なんざこれっぽちも思っちゃいねえよ」

「でも囮には使うんですね…寿命が縮みそうです…」


悪魔らしい非人間的な危なっかしい考えを持っているようだが彼もまたアンジュを

脆く儚い人間であるとしっかりと認識しており、大切にするつもりのようだ。

悪魔と聞けば悪い方向に考えがちだが、そういった者ほど案外一つの物を大切に

してくれるのかもしれない。勿論、そうでない場合もあるが…。


「さぁ天使様ァ。俺から盗んだ物を全て返してもらうぜェ!!」


マモンが掌を広げるとガブリエルの羽から幾つもの宝が現れた。何とビックリ

その羽は収納ケースか何かだろうか?


「テメェの綺麗な羽も俺の所有物で穢れちまったなァ?どうだァ?全身が

穢れていく気分はよォッ!!!」


ガブリエルの悲鳴、マモンの笑い声。この状況において最も有利なのは悪魔マモン。

ガブリエルはそこでようやく本気を出すのだ。


「散々コケにしやがって…いいわ!貴様がその気なら細切れにしてやる!!」

「天使様が俺と踊ってくれるのかァ?そりゃあ…嬉しいじゃねえかァ!!!!」


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アンジュの魔導書 花道優曇華 @snow1comer

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